溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を




 「……同棲していた彼氏に別れて欲しいと言われて、家を出されてしまって。貯金も全て使われてしまってたみたいで、どうすればいいかわからなくて……。」
 「それは、酷い話ですね………。じゃあ、そのスーツケースは。」
 「私の全ての持ち物。全財産ですね……。このスーツケースだけ、彼氏に渡されました。」
 「……そんな事があったんですね。じゃあ、実家に帰るとかですか?」
 「いえ……私の両親は他界してますので。」


 絶句した様子の男を見て、花霞も苦い顔するしか出来なかった。
 確かにお金にはルーズなところもあったし、怒ると怖いところも見られた。けれど、さすがに花霞のお金を全て取ってしまうとは思いもしなかった。
 自分のお金だとしっかり意思表示して、マンションから逃げてくるべきではなかったのかもしれない。
 けれど、花霞は怖かった。彼の表情が見たこともない冷たい目で見つめるのを黙っては見ていられなかったのだ。


 ギュッと強く目を瞑る。
 目の前に居るのは玲ではないのに、思い出しただけで身が震えたのだ。


 「では、俺の家に来ませんか?」
 「え………。」


 男の突然の誘いに、今度は花霞が驚き、目を開けた。男を見ると、その表情には冗談はなく真面目な顔だった。
 花霞は、この男の考えている事がわからなかった。


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