傘と猫
【予報は雨】

「嘘ー! ちょー雨じゃん!」

親友の比留間奈津子が、私の机に顔を突っ伏して叫んだ。

5時間目が終わった休み時間だった。次の授業の教科書を置きたいのに……邪魔だ。

雨は昼過ぎから降り出した。
校舎の三階の窓から見える空は真っ黒で、雨は窓ガラスに音を立てて当たっている。

「もう、今朝の予報で、午後からは急な雷雨にって言っていたじゃん」
「マジか! 昨日の予報では晴れだって!」
「予報は刻一刻と変わります」
「えー、止む? 止む?」
「予報では、夕方までこんな天気みたい」
「夕方!? 天気予報の夕方って、ちょっと早い時間の事、言ったよね!」

そう言って奈津子は一旦自分の席に向き直って、机からスマホを取り出した、空いた隙に六時間目の物理の教科書を出すと、隣から盛大な溜息が聞こえた。

横目で見やる、まともに見ると怖いから──不良と言う訳ではないんだけど、口数も少なくて、背も大きいし目つきも悪いから、ちょっと敬遠してしまう存在……小山廉一こやま・れんいちの隣の席になった時は、自分の運を呪ったものだ。幸い前の席が親友の奈津子だったからいいけど、そうじゃなかったら誰かに代わってもらいたいくらいだった。それくらい苦手な人。

視界の端で見ると、どうやらこちらを見て溜息を吐いたらしい。

「ぎゃあ、本当だ! 18時まで雨ー! 部活終わっても降ってるー!」

奈津子がスマホの天気予報を見て叫ぶと、今度は小さな舌打ちが聞こえた、そしてガタンを大きな音を立てて立ち上がる。

どうやらうちらがうるさいというアピールらしい。
こんなの一日に何度もある。一応、奈津子にも言ったけど……だからなに?状態だ。

「小山、今日も機嫌悪いね」

教室を出て行く小山の背を見送って奈津子は言うけど……これで小山がもう少し社交性があれば謝りもするけど、できれば目も合わせたくないので言葉も交わせず、心の中で謝るばかりだ。

「そだね。で? 傘、ないの?」
「ないよーっ、いつもなら折り畳みは置いてたけど、この間使って持ってきてないし!」

高校の周辺にはコンビニもない。

「いいよ、私、あるから、駅までは送ってあげる」
「おお、我が友よー!」

机越しに抱き締められた。
正直、奈津子はいつもこんな感じだ。ちょっと何処か抜けてて、おっちょこちょい。今度はこの子の分の傘も学校に置いておこうかしら?
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