【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
一カ月の彼氏
藍田胡桃 SIDE*
◇
どうしよう……。
灰野くんと話せた。
それもあんなにたくさん……!しかも自然に。
中1の冬に付き合って、いつの間にか別れて……それからずっと無視されていたのに。
なんで突然、喋れるようになったんだっけ。
びしょぬれのプリントを四つに畳んだ。
汚そうにプリントの端をつまんでいた灰野くん。あの、険しい顔。
中学生の頃、その表情を頻繁に見て、別れたんだっていい加減確信したんだ。
―――灰野くん、どうしてにらむの?
何度も聞こうと思って、結局聞けずじまいだったけど、聞いちゃえばよかったな。こんなにずっと、もやもやしているくらいなら。
「はぁー……」
でも灰野くんの前に立つと、しっかり膨らませてパンパンになったはずの勇気が、一気に萎んじゃうんだもん。ぷしゅーって。
いつしか「おはよう」さえ、言う勇気がなくなった。
そういうのを、意気地なしって呼ぶ。