【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
あまりの空気の悪さに、山本君が苦笑いを浮かべて話に入った。


「おいおい、元カレカノさんたち、なんでそんなギスギスしてんの!?」


「えっ?」


……かれかの?


素っ頓狂な声が出てしまって、口元を両手で覆う。


また過剰反応しちゃった。


ねぇ、山本君。

灰野くんが「あんなのは付き合ったうちに入らない」って言ってたの、忘れちゃったの?


「だから俺たちは……」


灰野くんは眉根を寄せて、またかと呆れたような顔を山本君に向ける。


きっと灰野くんはまたあの言葉を言うんだ。


―――『あんなのは付き合ったうちに入らない』。


魂ごと凍り付いてしまいそうなその言葉を。

灰野くんの口から二度と聞きたくないよ。


だから、あたしは息を吸った。


「あんなのは、付き合ったうちに入らないよね」


あたし、灰野くんみたいに、笑って言えたかな。


泣きそうな顔にならなかったかな。



「……え?」



灰野くんの声がして、間があく。


この会話を聞いていた山本君も、嘘みたいに固まっている。


「え?」


硬直するあたしに、灰野くんはのんびりとでもかたく、口角を上げる。


「ごめんね。俺みたいなのと付き合ってたみたいな誤情報流されちゃって」


表情に反したトゲトゲした言葉が、あたしの心を引っ掻いていく。


誤情報と集約された、あたしたちの一カ月。


……間違い。


いや、そんなものなかった。

すくなくとも、灰野くんの中には、きっとなんにも無かった。


「うん。こっちもごめんね」


作り笑いを張り付けて、席に着く。


泣きそうだよ……。


潤んできた目をごまかすためにあくびの真似をしてから、ただの眠い人を装ってゆっくりと机に突っ伏した。



< 20 / 400 >

この作品をシェア

pagetop