青い鏡
夢を見た。大嫌いなあいつと沈んでいく夢。
水中のはずなのに苦しくなくて、むしろ楽に息ができる。
 「あいつ」はやっぱり苦しくなさそうに私を見つめていた。
 青。
 体調が悪くて顔が真っ青だよ、とかじゃない。
 あいつが、青い。深い水底より濃く、空よりも透明な「青」。少しも他の色を混ぜない、綺麗な青。
 気持ち悪い、よりも先に、羨ましい、と思う。
 羨ましい、触ってみたい。
 手が伸びる。
 頬のあたりに指が触れた途端、
 ぶくぶくぶくぶく、と泡を立ててあいつが弾けた。
 あいつがいた場所にには水。ただ、膨大な水。
 びっくりして苦しさを覚える。
 何かしないと、と顔の前に手を持ってくる。
 指は、青い



目が覚める。ばちん、とスイッチを切るような目覚め。
 最後に見たあの青さが指に残っている気がして指を見つめてみても、白いような赤いような色をしているだけで、青の要素は血管くらいだ。
 最近あいつと沈む夢をよく見ている(ような気がする)。ただ、あいつが青いのは初めてで、びっくりする。びっくりしただけで、羨んだだけで、大嫌いなのは変わりない。好きになんて、これっぽっちもなれそうにない。
 好きの反対は無関心だと誰かが言った。
 違う。
 無関心は「ゼロ」、嫌いは「マイナス」。
 ゼロからプラスに傾くかマイナスに傾くかなんてわからない。ほんのちょっでもプラスに傾けばそれはもう「好き」なんだから。
 ぐんとマイナスに傾いた関心をこつこつ積み重ねてプラスに傾けるよりうんと簡単。
 マイナス1をかけるより、1を足すほうが、ほら、簡単でしょ。小学校一年生と中学校一年生の違い。
 関心にマイナスをかけることはできない。
 だって、かけ方がわからない。
 私は小学生のまま 嫌いなまま
 高校の教室という海の中でスマホという酸素を供給しながら生きている。生きようとしている。
 それを生きているといわないのなら、私は、全然、これっぽっちも生き方がわからない。
 合ってるのか間違ってるのかすらもわからない生き方で生きている実感がわかない、死ぬのも怖い。

 ふと、スマホから顔を上げる。みんな、ちかちかと移り変わる画面に夢中。スマホ触らずにしゃべっている人たちなんてごくごく少数。
 あ、このままだと充電切れる。朝は100%あったのに。
 カチ、と電源ボタンを押す。フッと画面が blackout 。
 なんて、ね、ちょっとあの目覚めに似ている。
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