しずくの恋

潜入っ!

それから数日後。


改札を抜けて、通学路を歩いていると
杏ちゃんが笑顔で近づいてきた。


「しずく、おはよう~♪

昨日の夜、例の空手道場に体験希望の連絡しちゃった♬
しずくの恋を応援しちゃうんだからっ!

明日、3人でいざ出陣♡」


「あ、明日⁈ 空手の体験⁈ な、流山くんの道場に⁈ 」


「だって、卒業まであと半年しか残ってないんだよ?」


あの話、杏ちゃん、本気だったんだっ!


「ど、ど、どうしよう、緊張してきたっ!

同じ道場から流山くんを見れるなんて、
今夜、眠れないかもしれないっ…‼ 」


緊張で手が震えるっ。


「帰りに新しいフェイスマスク買って、夜、パックしなきゃっ!
杏ちゃん、あとは、なにが必要⁈」


「平常心かな」


「そうだね、盗撮したくなる気持ちを抑えて、
平常心を保つことが一番重要かも。

挙動不審で捕まっても嫌だし」


「琴ちゃん‼ 」


いつの間にやら琴ちゃんが加わって、
3人で学校へと歩く。


明日のことを考えると、
どうしていいのか分からなくて

胸が苦しくなる…


すると、杏ちゃんにゆさゆさと体を揺さぶられた。


「しずく、 しっかりしてっ!

緊張しすぎて、呼吸が止まってる!
いいから、まず、深呼吸して!」


「顔色が不気味なことになってるからっ!」


不気味な顔色⁈


そ、それはマズイっ!


「ほら、落ち着いて深呼吸っ!」


「は、はいっ!」


深呼吸!深呼吸っ!


吸ってー、

吐いてー、


吸ってー…


そっか、明日は道場で、流山くんと同じ空気が吸えるんだ…

うわぁ!

同じ場所で、同じ空気が吸えるなんてっ!

空手してる流山くんと同じ空気を、


吸ってー…


吸ってー……


おんなじ空気をたくさん吸って……



……



「ちょっと!しずく、また呼吸が止まってる!
もう!顔色、土色になっちゃってるからっ!!

ちゃんと息、吐いて!」



ふ、ふ、ふ、フウーーーっ!

くく、く、、苦しかった……




「あと、流山を見に行くんじゃなくて、一応空手の体験だから。

それ、忘れないでね!」


「は、はいっ」


う、うわぁ…
同じ道場で体験できるなんて、

今夜は興奮して眠れないかもっ!


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