腹黒王子の初恋
 待ち合わせ場所に出て髪を解き眼鏡をはずす。
 
「は~、きもちいい!」

 伸びをしながら思わず声が漏れる。ここは泰晴と私の秘密の場所。木で周りを覆われた屋外。穏やかな日差しが入り込む。

 私は超超人見知り。オフィスでは極力目立たないようにしている。人と関わるのが苦手な私を気遣って泰晴が教えてくれた。ここなら誰にも見つからず素の自分でいられるし、泰晴とも話せる。
 あんなめちゃくちゃ目立つ同期を持ったのが私の不幸…見た目は文句なしのイケメン。しかもコミュニケーションの塊みたいなアイツ。中学から大学までバレーボールをしていて高身長のスポーツマン。すぐ輪の中心になってたりする。一緒にいたら目立ってしょうがない。なるべくなるべく近寄らないようにしているし、泰晴にも近づかないようにお願いしている。

 「おつ、優芽」

 泰晴がみかんジュース缶を投げてきた。

 「ありがと。」

 まだ3年とちょっとの付き合いだけど、私のことをよく理解してくれて本当に大切な友達だ。

 「さっきのすっげ怖かったぞ。だから鉄女とか呼ばれんだよ。この変態。」
 「うっさいな。いーでしょ」

 泰晴が笑いながら冗談を言う。裏表もなく何でもはっきり言ってくれる彼だから素の自分でいられる。

 「それでも仕事が早いから優芽はすげーよな。あんなに妄想ばっかりしてんのに。で、さっきは何妄想してたんだよ。」
「泰晴!ちょっと聞いてよ!」
 
 声が大きくなっちゃった。

 「さっき、ゆうきゅんが…」
 
 印刷物を届けに行った時のことを話そうとしたら…

 「…つじせんぱい…」
 「おお、文月」

 ひっ!本人!何で?ヤバ!なんでここに来てるの?すっごくこっち見てるぅ。
 衝撃で心の中が大暴走してるけど、冷静になろうと必死に無表情を装う。泰晴も少し驚いたようで私とゆうきゅんを交互に見ながら話している。

 「どうした?」
 「あの、谷先輩が至急調べてほしいことがあるそうで探していますが…」
 「わかった!すぐ行く!優芽、また後でちゃんと聞くから。仕事がんばれよ。」
 
 二人のことを見れずに手だけを振る。ちょっとお願いだから話しかけないで。無言な彼が怖い。

 「あ、あの…梢先ぱ…」
 「おい、文月行くぞ」

 はー。ありがと。泰晴。頼りになります…。

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