冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
第九章
翌日。

視察が終わると、何事もなかったかのような平凡な日常に戻った。けれど、私の安西部長への思いは募るばかりで、行き場のない感情を持て余していた。

休憩時間。広報部のあるフロアの隅に設置されている自販機の前でアイスのボタンを押し、コーヒーを買っていると。

「お疲れ、会議も無事に終わったみたいでよかったな」

顔も見ずにその声を聞いただけで、自分の表情があからさまに曇っていくのがわかった。振り向くと、コーヒーを片手に健一が立っていた。

「うん、なんとかね。ありがとう」

早く早くと自動でコップに注がれるコーヒーを急かし、取り出したらすぐにオフィスに戻ろうと思っていた。けれど、健一は私の意に反して歩み寄ってきた。

「あのさ、今夜、話しできないかな? しつこいって思うかもしれないけど……俺のせいでこんなことになって、せめて償わせて欲しいんだ」

自販機の周りには誰もいない。それをいいことにプライベートな会話を持ち掛けられて困惑する。

償う? 今さらどうやって?

もう、やめてよ……。そんなことされたら、またフラれたときのこと思い出しちゃうじゃない。
どす黒いシミがじわじわと広がって、目元に熱を持ち始めたそのときだった。
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