不死身の俺を殺してくれ
第1章
 何がハッピーフライデーよ。結局今日も残業じゃない。あの上司、毎回毎回、へらへらしちゃって本当に腹が立つ。

『奥さんが待ってるから。後はよろしくね』

 原さくらの肩を叩き、上司はそうそうに業務を切り上げて、そそくさと帰宅した。
 
 社内に残されたさくらはつい先ほどまで、来週会議で使用する書類をまとめていたのだ。
 
 あーもう。奥さんが何よ。こっちだって死ぬ程疲れてるわよ。独身の女を少しは労りなさいよ馬鹿野郎。

 上司の言葉を思い出すだけで、苛立ちがこみ上げて来て、家路を辿る足は無意識に早歩きになる。

「…………面倒だし、近道しようかな」

 ふと歩みを止めたさくらは、右側の薄暗い路地裏に目線を移す。
 
 自宅マンションまでは残り数メートル。今はその数メートルすら惜しい。早く帰宅してビールを呷り、ベッドで泥のように眠りたい。

 というより色々と虚し過ぎる。華の二十代を彼氏無しで、仕事に食い潰すとか悲し過ぎる。

 一人思考に耽りながら決心したさくらは、月明かりだけを頼りに、薄気味悪い狭い路地裏に足を踏み入れ歩みを進め始めた。

 すると、少し離れた場所に大型業務用の青色のゴミ箱に隠れるようにして、身体を地面に横たわらせている人のような何かが見えた。

 酔っ払いかもしれないと、路地裏を通ったことを早速後悔し始める。

「……ん?」

 だが、酔っ払いにしては少し様子がおかしい。

 見ないふりをして早く路地裏を抜け出せばいいものを、その人影のようなものに気を取られたさくらは、倒れている人物に恐る恐る近く。

 ──そして、気づいた。

「……し……死んでる!?」
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