私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!【完(シナリオ)】
第20話「私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!」
(回想)
ローズマリー「……私を直接殺して自分達が犯人候補になるよりも、私をユリシーズ様暗殺未遂犯に仕立て上げる事によって、私を消そうとしていたのね……」
机の上に広げられた報告書を読んだローズマリーは、一つため息をついた。向かいに座るユリシーズも渋い顔をする。
ユリシーズ「随分と回りくどいけれど、ローズマリーを嵌めようとしていたみたいだよ。毒事件も情報規制をしていたお陰で広まらなかったけど……、噂が広まっていたらローズマリーの側室としての資質を疑問視する声は上がっていただろうね。それも考慮していたのだろうけど」
ローズマリーはふと遠い目をした。
ローズマリー「ええ……、女官長にこっぴどく絞られたわ……。隙がありすぎる!……って」
ユリシーズは
ユリシーズ「まあ、長所だけど時として短所にもなるよね」
とあっさり肯定する。ローズマリーはガックリと肩を落とした。
ユリシーズ「カリスタが常にローズマリーの傍にいたから、僕の他の側室との関係がちゃんと伝わらなかったんだろう?」
ローズマリー「そうね……」
ローズマリー(直接、ユリシーズ様に他の側室と仲良くしましたか?なんて聞けないわよ……)
報告書に目を落としたままのユリシーズをチラリと眺めながら、ローズマリーは内心ひとりごちる。
ユリシーズ「ケイシー嬢は実家のハトルストーン男爵家がメイフィールド侯爵家に逆らえなかったそうだよ。ケイシー嬢の後宮入りもメイフィールド侯爵家の指示だったそうだ」
ローズマリーはふとケイシーを思い出す。ふるふると震えてばかりいた彼女の姿を。
ローズマリー「ケイシー様は、いつも怯えていたわ……」
ユリシーズ「あまり気の強い方でもなさそうだしね」
ローズマリー「そうね……」
ローズマリーは報告書の一部を指でなぞる。
ローズマリー「カリスタも……」
――カリスタの夫がメイフィールド侯爵家に連なる者であり、彼女は彼女の夫と本家に脅されていた。
(報告書内容)
○王城 取り調べ室
カリスタ「夫はメイフィールド侯爵家の分家の末端。私はやっと貴族に引っかかるくらいの弱小貴族の分家出身です……。私にとっては、ローズマリー様もメイフィールド侯爵家も雲の上の存在でした……」
カリスタは一度、言葉を切って少しだけ目線を下げる。
カリスタ「……いえ、メイフィールド侯爵家の方が夫の縁戚の分だけ、私にとっては逆らえない人間達でした」
カリスタ「私がローズマリー様の侍女に選ばれたのは、実家の後ろ盾もなく、メイフィールド侯爵家一族の内でも力の弱く、身分的にもちょうど良かったのでしょう……」
カリスタ「メイフィールド侯爵家に逆らえば、今の働き口も身分も何もかも失ってしまう。でも、ローズマリー様を陥れようと行動しても、何もかも失ってしまう」
カリスタ「……どちらを選んでも、後がなかったのです。――でも、」
カリスタは膝の上に置いた手をギュッと握り締める。そして、俯いて唇を噛んだ。俯いた表情は騎士には見えない。
カリスタ「ローズマリー様が純粋に私と仲良くして下さったのだけは、誤算でした」
音もなくスカートの上に落ちた涙は、他の誰の目にも触れることはなかった。
カリスタ「あんまりにも真っ直ぐだったから」
(報告書内容終了)
ユリシーズ「カリスタとケイシー嬢は修道院。一家は貴族籍剥奪。リリアン嬢を含むメイフィールド侯爵家は爵位剥奪と国外追放。これでいいんだね?」
ローズマリー「……ええ。刑を軽くしてくれて、ありがとう」
ユリシーズは苦笑いをこぼした。
ユリシーズ「下手に罪を重くして、ローズマリーに罪悪感を覚えさせるのも本意ではないからね」
ローズマリーは俯いたまま、ポツリとこぼす。
ローズマリー「カリスタの気持ちを察せなかった私も私ね……」
ユリシーズ「ローズマリーとカリスタは仲良さげに見えていたけど、全部が嘘ではなかったという事だよ」
ポタリと報告書に水滴が落ちる。顔を上げたユリシーズは黙ったまま、ローズマリーの頭に手を伸ばす。そして、しゃくり上げる声が聞こえなくなるまでゆっくりと撫で続けた。
(回想終了)

〇ユリシーズ王太子後宮 ローズマリー私室
ローズマリー(……相変わらず女官長は私に厳しいけれど)
天蓋付きのベッドに腰をかけ、綺麗にラッピングされたマカロンを眺めながら、ローズマリーは遠い目をする。今日は散々磨かれまくっていたので、既にぐったり気味だった。
ユリシーズ「待たせたね」
ユリシーズが夜着に、上から上着を軽く羽織った姿で現れる。ローズマリーはビクリと肩を跳ねさせた。
ローズマリー「ユ、ユリシーズ様?!」
隣に腰かけたユリシーズは、ローズマリーの手元を覗き込む。
ユリシーズ「それは今日作ったの?」
ローズマリー「ええ。マカロン作ってみたの。意外と難易度高いのよ」
ローズマリーがユリシーズに渡すと、ゴソゴソとラッピングを解き、ユリシーズはマカロンを齧った。
ユリシーズ「ん……、甘い。すごく美味しいよ!ありがとう」
ユリシーズは顔を輝かせる。ローズマリーもつられて笑顔になった。
ローズマリー「よかったわ!……ようやくちゃんと食べてもらえて嬉しい。ユリシーズ様ではなく、邪魔な私に毒を盛ってもらいたかったわ」
頬をふくらませるローズマリーの言葉に苦笑いを浮かべた。ベッドサイドにマカロンを置く。
ユリシーズ「ローズマリーに毒を盛られたら僕が辛いよ」
ローズマリー「私も同じ思いだったわ。……でも、ユリシーズ様が私は犯人じゃないって信じてくれたのは嬉しかった」
ふふ、と笑い声をこぼしながら、ユリシーズはローズマリーの頬をムニっと緩く掴む。
ユリシーズ「まあ、ローズマリーは凄く分かりやすいからね」
ローズマリー「もー……」
ユリシーズ「いつも真っ直ぐな所、僕は好きだよ」
そして、目を細めた。顔を寄せる。
ユリシーズ「王太子妃になる覚悟は出来た?」
ローズマリーは顔を赤くしながら、やや視線を逸らして小さく頷く。ユリシーズは首を傾げる。
ユリシーズ「どうしたの?」
ローズマリー「は、恥ずかしいから……」
ユリシーズは少し頬を桃色に染めて、
ユリシーズ「これで、やっとローズマリーを僕のものに出来る」
と心底嬉しそうに微笑んだ。

○数年後・王城 
ローズマリー「見て見て!ブラッドが城下に出したスイーツ店の新作!私も開発に携わったのよ!」
ローズマリーがラッピングされたお菓子を、目を輝かせながら幼い少年に見せる。ローズマリーとは対照的に、幼い金髪の少年は呆れた視線を向けた。
息子「母上……、また勝手に城下に行ったのですか……。父上と女官長に怒られますよ……」
ローズマリー「大丈夫よ!貴方が2人に黙っててくれれば……」
ユリシーズ「ごめんね?聞いてしまって」(1話のユリシーズにバレる感じで)
グッと拳を握ったローズマリーの部屋を、ノックもなしに入ってきたのは、話題の人。ユリシーズその人だった。
まさか一番聞かれてはいけない人に即バレてしまったローズマリーは頭が真っ白になる。
穏やかな笑み。誰もが認める王子様スマイル。
……その笑顔から圧がなければ。
じりじりと迫ってくるユリシーズに思わず一歩、ローズマリーは後ろに下がった。
途中、ユリシーズは少年を抱き上げて、額にキスを落とした。少年は桃色の瞳を細めて嬉しそうにされるがまま。反対にローズマリーは迫ってくるユリシーズに、冷や汗をダラダラと流す。
ユリシーズ「ローズマリー?さっきの話、詳しく聞かせてくれるかな?」
ローズマリー「ご、ごめんなさい!!」
外までローズマリーが勢いよく謝る声が響き渡った。
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