捨てられる前に捨てましょう
婚約者とは両想い

ふたりの変化

「ねえ、今、手を抜いていたでしょう?」

嘘は絶対に許さない。そんな気迫を込めてアディを見据える。

地面に直に座り気持ち良さそうに冷たい水で喉を潤していたアディは、私の顔を見た途端にゲホゲホと咽せはじめた。

「な、なんでいきなり怒ってるんだよ」

クラウザー公爵家の広い庭には温かな春の光が降り注いでいる。小鳥の囀りが耳に心地よい麗らかな日だ。

けれど私の心は穏やかじゃない。

なぜならアディが私との手合わせで、明らかに手を抜いたからだ。

私は全力で挑んだけれどまるで適わなかった。

それは別にいい。アディの剣術は私の祖父と父も認める程のものだし、男女の力の差もあるから勝てないのは仕方がないと分かっている。

でも自分は反撃せずに私の様子を窺いながら、引き分けに持ち込むなんて。

まるで大人が子供を相手にするみたいで許せない。
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