極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

「ん……」

 起きてしまったのか、裕ちゃんがむにゃむにゃ言いだした。

「希樹、もっとくっついて。もう少し寝ていよう」

 長い腕が伸びてきたら急に恥ずかしくなり、私はベッドから飛び降りた。

「裕ちゃんはゆっくりしていて」

 私はそれだけ言って、早足でキッチンへ。

 いつもビシッとしている裕ちゃんの寝起きを見られるの、今のところ私だけなんだ。
 
「犯罪級の可愛さ……」

 にやけてしまう頬を叩き、朝食の準備にとりかかる。

 ほとんど準備が完了したところで、私服の裕ちゃんが現れた。

 そこで初めて、今日が土曜日だということに気づく。

「おはよう。よくも俺をひとりで置き去りにしたな」

 冗談めかして笑う裕ちゃん。

 土日はゆっくり寝ていると、裕ちゃんが朝食を準備してくれたりする。

 その姿を見るのも好きだし、彼のご飯は私のそれより、数段美味しい。

 あー、残念。損した気分。まあいいんだけど。

 テーブルについた彼は、向かいに座った私の顔をじっと見つめる。

「な、なに?」

「いや、今日も可愛いなと思って」

 さらっとそんなことを言われ、持っていたフォークを落としてしまう。

「最近、薄く化粧をしてるだろ?」

「う、うん」

「最初の頃はすっぴんだったのに。ノーメイクの方が楽なら、ムリしなくていいんだよ。どっちも可愛いから」

 可愛いを連発されたら、単純に嬉しい。

 どうして偽妻に、こんなに優しくしてくれるのか。

「ど、どうも……」

 短く相槌を打って、茶碗を持つ。

 マニキュアもしてない自分の手を見て、ふと気づいた。

 優しくしてくれるのは、私が羅良と同じ顔だからだ。

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