【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第3話 離婚の危機ですか!?
○天倉家(朝)

夏音「あと5分……」

   ベッドの中の夏音、鳴っていた携帯の目覚ましを止める。
   うっすら目を開け、左手薬指の指環が見えて飛び起きる。

夏音「そっか。天倉社長と結婚したんだった……」

   緩いTシャツに部屋着のショートパンツ姿で、あくびをしながら洗面所へ向かう。

天倉「おはよう。よく眠れた?」
夏音「ひぃっ」

   洗面所から天倉が出てきて、夏音、悲鳴を上げる。

夏音「お、おはようございます……」
天倉「素敵な格好だね」

   天倉、笑いながらリビングへ消えていく。
   夏音、洗面所で自分の姿を確認して、みるみる頬を赤く染める。

夏音「この格好は、さすがに、ヤバい」
   火照る顔を誤魔化すように顔を洗う。
   顔を拭きながら鏡に映る自分に突っ込む。
夏音「油断しすぎ」
夏音M「相手は戸籍上は夫でも、あくまでも偽装結婚相手なのだ」


(回想)

○天倉家(昼)

天倉「黙ってここに、サインしてくれないかい?」

   と、婚姻届を前にペンを差し出してにっこりと微笑む。

夏音「偽装なんだから本当に結婚する必要はないですよね!?」

   夏音、軽くパニックになる。

天倉「ああ。絶対、戸籍を調べられるに決まってる。そこまでするんだよ、僕の両親は」
夏音「はぁ……」
天倉「嫌っていうなら、採用の話は……」
夏音「します! しますから!」

   と、天倉からペンをひったくってサインする。

天倉「悪いね、いろいろと。じゃあ、ちょっと一緒に出かけようか」
夏音「は? どこに?」

   夏音、立ち上がった天倉を見上げる。
   目のあった天倉、にっこりと笑う。

天倉「婚姻届、出しに行かなきゃいけないだろ。あと、結婚指環も買わなくちゃ」
夏音「ああ、そういう……」

   夏音も立ちがり、天倉に続く。


○役所(夕)

担当「確かにお預かりいたしました」

   と、書類をしまう。

夏音M「これで天倉社長と夫婦? なんか、あっけない……」


○宝飾店(夕)

   落ち着いた、高級そうな店内。
   店に入った途端、男性がすぐに目の前に立つ。

店長「お待ちしておりました」
天倉「うん、よろしく頼むよ」

   夏音、案内された個室をついきょろきょろと見渡してしまう。

夏音M「さすが社長というか……。セレブ扱いなんだ……」
店長「本日は御結婚指環のご購入ということでうかがっておりますが」
天倉「そうなんだ。たったいま、婚姻届を出してきたところでね」
夏音「ひぃっ」

   天倉から腰を抱き寄せられ、夏音が小さく悲鳴を上げる。

店長「それはおめでとうございます」
天倉「らしくしないと疑われるでしょ」

   と、耳打ちする。

店長「どうかなさいましたか」
天倉「いや、なんでもない。彼女に似合いそうなものを見繕ってくれないか」
店長「かしこまりました」

   店長が去り、ふたりになる。

夏音「あの、本当にいいんですか」
天倉「なにが?」
夏音「形としては必要でしょうが、天倉社長には……」

   と、天倉の手に結婚指環がないことに気づく。

天倉「ああ」

   夏音の視線に気づき、天倉が胸もとのネックレスを引っ張りだす。
   そこには指環が通っている。

天倉「これからは指に嵌められないけど、こうやっていつも一緒だから」

   と、淋しそうに目を伏せる。

夏音M「あー、もー、くーっ! 純愛、万歳! でもそのために私と結婚指環とか……ちょっと……いやかなりの罪悪感が……」
店長「お待たせいたしました」

   店長が入ってきて、慌てて夏音が気を取り直すように小さく咳をする。
   天倉の首が、少しだけ怪訝そうに傾く。

店長「こちらなどいかがでしょうか」

   店長、トレイの上にいくつか結婚指環を並べていく。

天倉「夏音、どれがいい?」
夏音「……!」

   天倉がにっこりと笑い、夏音が一気に赤くなる。

天倉「これとか、可愛いよね」

   と、夏音に指環を嵌める。

天倉「んー、ちょっと可愛すぎるかな。もっとシンプルな方が夏音には似合うよね」

   と、また、違う指環を嵌める。

夏音M「天然!? これって天然なんですかー!?」
天倉「さっきから黙っちゃって、どうしたの?」

   赤い顔で俯いている夏音の顔を、天倉がのぞき込む。

夏音「あのー、えっと。……天倉社長がいいと思ったのでいいので」
天倉「ダメだよ、そんなの。せっかく買うんだから、気に入ったのがいいでしょ」
夏音「は……い」

   夏音、小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける。

天倉「僕はこっちかこっちがいいと思うんだけど、どう思う?」

   と、交代で指環をふたつ、夏音の指に嵌める。

夏音「そうですね……」

   指に嵌まった指環を見ながら夏音が少し考える。

夏音「じゃあ、こっちで」
天倉「わかった。……じゃあ、こちらをもらうよ」
店長「かしこまりました」

   天倉が支払いに出したカードを見て、夏音がぎょっとする。
夏音M「ブラックカードとか、さすが……」
天倉「指環はこのままつけて帰るよ」

   と、夏音に指環をはめ直す。

天倉「僕にも嵌めて?」
夏音「……はい」

   夏音、震える手で天倉に指環を嵌める。

天倉「これからよろしくね、奥さん」

   と、にっこりと笑う。

夏音M「いまからこんなんで、上手くやっていけるんだろうか……?」

(回想終わり)


○天倉家(朝)

天倉「夏音ー、朝食、食べるだろ?」
夏音「え、自分で……!」

   夏音、自分の部屋からダイニングへ慌てて向かう。
   ダイニングには和食の朝食がふたり前、できあがっている。

天倉「ついでだよ、ついで。一人分作るのも、二人分作るのも同じだからね」

   と、ウィンク。

夏音「じゃあ、お言葉に甘えて……」

   と、テーブルに着く。

天倉「いただきます」
夏音「いただきます」

   ふたり、箸を取る。
   夏音、お味噌汁を一口。

夏音「……美味しい」
天倉「よかった。食事だけどさ、各自でってことだったけど、さっき言ったみたいに一人分も二人分も同じだからね。よかったら時間が合うときは僕が作るよ」
夏音「いえ、そこまで天倉社長に甘えるわけには!」
天倉「いいんだよ。それでこの家で、誰かとまたこうやって食事ができるなんて思ってなかったし」

   と、箸を置き、弱々しく笑う。

夏音「あ……」
夏音M「尊い……! もう、尊すぎる……! 朝から、ごちそうさまです!」
天倉「ん?」

   と、不思議そうに首を傾ける。

夏音「あ、いえ」

   と、誤魔化すように小さく咳払い。

夏音「だったら、私が作ります。一応、妻なんですし」
天倉「んー、僕さ、妻だから、夫だからって考え方、嫌いなんだよね。家事なんてできる人がすればいいし」
夏音「はぁ」
天倉「それに僕、ひとり暮らしがもう長いだろ? 料理するの、好きになっちゃって。できないときは夏音に頼むけど基本、僕にさせてくれないかな」
夏音「そういう理由なら了解です」
天倉「よかった」

   笑う天倉に夏音の頬が赤くなる。

天倉「そうそう。僕たちの結婚……」

――ピリリ……。

   天倉が言いかけたとき、夏音の携帯が鳴る。
   画面には父親の表示。
   天倉に目配せして夏音が携帯を取る。

夏音「はい」
夏音父『おい、結婚ってなんだ!?』
夏音「はい……?」
夏音父『四菱地所御曹司と結婚ってなんだ!? 聞いてないぞ!』
夏音「ああ……」
夏音M「怒ってるのはわかるけど、なんで知ってるんだろう……?」
夏音父「そんなの、認めないからなー!!!!!」
夏音M「いきなり、離婚の危機ですか……?」
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