【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第5話 新婚旅行……?
○天倉家(朝)

   天倉から夏音がキスをされる。
   唇を離した天倉が、夏音が固まっていることに気づく。

天倉「夏音? おーい、夏音?」

   と、夏音の前で手をひらひら振る。

夏音「……キス」

   夏音、聞こえないくらいの小声で呟く。

天倉「え?」
夏音「キスしたー!」

   みるみるうちに夏音の全身が真っ赤になる。

天倉「キスくらいでそんなに大騒ぎするもんでもないだろ」
夏音「だって、だって……」
夏音M「……ファーストキス、だったんだもん」

   夏音、目にいっぱい涙を浮かべる。

天倉「はぁーっ。なんだかわからないけど、ごめん、ごめん」

   と、夏音を抱きしめ背中をぽんぽんする。

夏音「……セクハラ」
天倉「ん?」
夏音「セクハラー!」

   と、天倉の腕の中から抜け出す。

夏音「偽装結婚なんですよ? なのにキ、キスとか、ハグとか許されるとでも思ってんですか!」
天倉「軽いスキンシップでしょ。人前でこれくらいしないと、信じてもらえないと思うけど」
夏音「そ、それはっ」

   天倉に迫られ、焦る夏音。

天倉「だいたい、なんでこれくらいのことでそんなに怒ってるの? 処女じゃあるまいし」
夏音「えっ、うっ、あっ」
天倉「もしかして……本当に処女なの?」

   するりと天倉が頬を撫で、夏音をじっと見つめる。
   夏音、容量オーバーになってその場に崩れ落ちる。
   天倉が立ち上がり、キッチンへ行ってなにかしている。
   しばらくしてカップを手に戻ってくる。

天倉「はい、落ち着くと思うから」
夏音「……ありがとうございます」

   と、差し出されたマグカップを受け取る。

夏音M「……あ、いい匂い。紅茶だ」

   ずずっと夏音、紅茶を啜る。
   天倉、黙って見ている。
   夏音が紅茶を飲み干してほっと息を吐き出し、ようやく天倉が口を開く。

天倉「それで。確認するけど夏音はまだ処女なの?」
夏音「……はい」
天倉「男と付き合ったことは?」

   ふるふると夏音が首を振り、天倉がため息をつく。

天倉「それなのに偽装結婚にOKしたの?」
夏音「……だって……偽装だから……そういう関係にはならないと思って……」

   天倉、また大きなため息を落とし、軽くあたまを抱える。

天倉「僕の両親を欺くためには今回みたいなことは今後、何度も必要になるよ。それでもいいの?」
夏音「うっ」

   夏音、ますます肩を小さく丸める。

天倉「できないっていうならこの関係は解消する。無理強いはしたくないからね。離婚が……」
夏音「解消して天倉社長はどうするんですか!?」

   かぶせるように言った夏音、なにかを決心した顔をしている。

天倉「別の人を探すかな。だから離婚が早すぎるって言われても、そういう男だったって……」
夏音「慣れてみせます! だから離婚しないでください!」
天倉「……え?」

   と、怪訝そうに夏音の顔を見る。

夏音「ボディタッチとキスまでですよね? 前の会社でハゲ親父のセクハラに耐えていたんです、それくらい耐えられます」
天倉「ハゲ親父のセクハラ……」

   と、複雑な表情。

夏音「頑張りますから……!」

   真剣な表情で夏音が天倉を見つめる。
   天倉、ため息を吐いた後、仕方ないなとでもいうように笑う。

天倉「わかった。でも無理はしなくていいから」
夏音「はい!」

   夏音、笑う。

天倉「じゃあ、夏音のご両親にご挨拶へ行こうか」
夏音「え?」

   と、首を傾げる。

天倉「忘れたのかい、さっきお父さんと約束したの」
夏音「そうだった……」

   そわそわと急に夏音が落ち着かなくなる。

天倉「大丈夫だよ、僕が全部上手くやるから」

   と、ウィンクする。

夏音「……。お任せ、します」

   少し赤い顔で夏音が俯いて答える。


○夏音の実家

   ごく普通の建売住宅。
   玄関を前に緊張して立つ夏音。

天倉「大丈夫だよ」
夏音「はい」

   ぎこちなく夏音が笑い、チャイムを押す。

母親「はーい」

   すぐに家の奥から返事があり、ドアが開く。

母親「まあまあまあまあ、いらっしゃい」

   母親はにこにこと笑い、歓迎ムード。

夏音「た、ただいま」
母親「はい、おかえりなさい。……さあさ、あがってください」

   母親に促され、夏音と天倉が家に上がる。
   リビングで夏音たちの姿を見つけた父親が苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

夏音「お、お父さん。た、ただいま」
父親「……」

   父親は不機嫌に返事もしない。

母親「ほら、突っ立ってないで座って」
夏音「……うん」

   夏音と天倉、父親の前のソファーへ座る。
   父親も夏音も黙っている。
   すぐに母親がお茶を淹れてくる。

母親「どうぞ」
天倉「おかまいなく」

   にっこりと天倉が笑い、母親か頬を赤らめる。
   父親の機嫌がますます悪くなる。

天倉「この度、夏音さんと結婚させていただいた天倉有史です。ご挨拶が後になり、誠に申し訳ありませんでした」
父親「……」

   不機嫌になにも言わず、父親がお茶を啜る。
   夏音はおろおろと見ているばかり。

天倉「僕は夏音さんを愛しています。絶対に幸せにして見せますから、心配しないでください」

   天倉が深々とあたまを下げる。
   夏音は驚いて天倉を見ている。
   母親はますます嬉しそうににこにこと笑っている。
   父親がじろりと天倉を睨む。

父親「……ずいぶんと夏音より年上のようだが」
天倉「愛に年は関係ないですから」

   母親がぱーっと顔を輝かせる。

母親「夏音! 年は関係ないですってよ!」

   と、夏音をつつく。
   夏音、曖昧な笑顔でそれに応える。

父親「うちはごく普通の家だ。あなたのようなセレブと釣り合うとは思えない」
天倉「僕が絶対に苦労はさせません。それに身分なんてどうでもいいですから」
母親「どうでもいいですってよ!」

   大興奮の母親に父親が呆れるようにはぁっとため息をつく。
父親「夏音は本当にいいのか。相手はかなりの年上、しかもあの大企業の御曹司だ」
夏音「うん、いい。私が決めたことだから絶対に後悔しない」

   強い決心で夏音が父親を見つめる。

父親「……なら、いい」
母親「きゃーっ、素敵ね!」

   母親が感情を抑えきれずにとうとう立ち上がる。
   父親、夏音ともにそれに対してため息をつく。


○天倉の車(夜)

   夏音の家からの帰途。

天倉「お父さん、認めてくれてよかったね」
夏音「そうですね」

   と、安心した顔をする。

天倉「それにしても個性的なお母さんだね」
夏音「すみません……」

   と、小さくなる。


(回想)

○夏音の家

母親「この子ったら男っ気が全くないし、なんかひとりで生きていくんだって達観してるみたいなところがあって、ずっと不安だったの。なのにこんな素敵な人と結婚するなんて」
天倉「素敵だなんて、そんな」
   にこにこと嬉しそうに笑っている母親に天倉が謙遜してみせる。
母親「ちょっと夏音と年が離れているけど、その分男の色香が……」
夏音「お母さん!」

   天倉の手を取り鼻息の荒い母親を夏音が慌てて引き離す。

母親「なによ、減るもんじゃないし」
夏音「減るよ。……たぶん」
天倉「減るんだ」

   と、おかしそうに笑う。
   その様子を父親は困ったように黙って見ている。

(回想終わり)


○再び、天倉の車

天倉「お母さんはあんなに喜んでくれたけど、僕は嘘をついているんだよね」
夏音「そう、ですね」

   と、つらそうに俯く。

天倉「心配しなくても大丈夫だよ。この契約を解消するときにはご両親の心配がいらないような相手を紹介するから」
夏音「……よろしくお願いします」

   夏音、複雑な顔をする。


○天倉家(夜)

   夏音の家に行った夜。
   ベッドに寝転び、ペンギンのぬいぐるみを抱きしめて天井を見つめる夏音。

フラッシュ
*****
天倉「僕は夏音さんを愛しています。絶対に幸せにして見せますから、心配しないでください」
*****

夏音M「あれが嘘だって最初からわかっていた。でもなんで私は、それがつらかったんだろう」


○SE社内

夏音「あま……」

   天倉を呼び止めようとしたがじろっと睨まれ、夏音が言葉を途切れさせる。

夏音「有史、さん」

   夏音、少しだけ赤くなる。

天倉「なに?」

   くすりと小さく笑い、天倉が夏音の隣に立つ。
   夏音、気を取り直すように小さくこほんと咳をする。

夏音「cadeau de Dieu(カド・ドゥ・ディユ)さんの内装の件なんですが……」

   と、手にしたタブレットを天倉に見せる。
   天倉、さらに夏音に近づき、タブレットをのぞき込む。
   夏音、距離を取ろうと下がりかけるも、踏みとどまる。

天倉「ナチュラルな感じで天国をイメージ、だっけ。難しいよね」
夏音「はい、それで……」

   と、タブレットを操作して気になっていた点を訊ねはじめる。

天倉「そうだね、一度、現地に行って確認した方がいいかもね」
夏音「そうですね」
天倉「んー、今週末、旅行をかねて一泊でどうだろう?」
夏音「はい、そうで……はい?」

   夏音、まじまじと天倉の顔を見る。

天倉「新婚旅行もかねて。いいよね?」
夏音「えっ、あっ」
天倉「いいよね?」

   天倉、さらに顔を近づけにっこりと笑う。

夏音「は、はい……」

   気圧されて夏音、つい頷く。

夏音M「なんだかマズい展開になってきている気がするのは、気のせいでしょうか……?」
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