距離感
過去
休み明けはどうして、こんなにも身体が重たいんだろう。

書類を見ながら、あくびが出てしまう。

資料を見ながら、ぼーとしていると。

「勝又、ちょっと来い」

部長に呼び出されてしまった。

一瞬、何かミスをしたのだろうかと思い、足が震えた。

嫌だなー、説教かなーと思いながら。

部長と一緒に執務室を出た。

「今な、社長が来てるんだ」

「え?」

足早に部長は会議室へと向かう。

追うように私も速足でついていく。

部長がドアをノックして、「失礼します」と言って中へ入り。

私も、「失礼します」と言って中に入った。

ロの字に机が置かれてあり。

入口から一番奥の正面に社長は座っていた。

「久しぶりだね、勝又さん」

優しそうな表情。

布袋様のような優しい笑みを浮かべた60歳近い男性こそ、この会社の社長だ。

「元気だった?」

「はい」

返事をすると、「まぁ、そこに座ってよ」と言われ。

社長が指をさしたところに座った。

何故か、部長は私の背後に立ったままだった。

「いきなり、本題に入るんだけどね」

「はい」

「勝又さん、福王子君と仲が良いんだって?」

「はい?」

急に何を言うのかと思えば・・・。

ただでさえ、社長に呼び出されて緊張しているというのに。

「え…と、仲が良いというか、家が近所なので…」

しどろもどろに答えると。

「そうか。あのね、僕は福王子君を正社員にしようと思っているんだよ」

「せいしゃいん?」

え、王子って正社員じゃなかったのかと内心で驚く。

「しいては、福王子君を正社員にして4月から東京の本社で働かせようと思ってるんだよね」

「はい…」

「だけど、福王子君。ちょっと勤務態度がアレっていうのを部長から聴いてね」

アレ…と言って言葉を濁してくれているのは、社長の優しさなのか。

部長を見ると、怖い顔をして黙り込んでいる。

「まあ、こればっかりは本人次第なんだけどね。福王子君が本気でやる気があるならば、そのやる気を見せてほしくてさ。勝又さんに福王寺君の面倒を見てもらいたいんだ」

「…どういうことですか?」

全くもって、社長の言っていることがわからない。

「面倒を見てもらうっていうのはな。勝又、お前が、あのバカ王子が遅刻しないように毎日一緒に出勤して。仕事中、怠けていたら注意をして。落ち込んでいたら励ましてやってくれればいいんだ」

ずいっと、部長が社長の側に寄る。

社長のいる前で「バカ王子」と言ってしまう部長が凄い。

「部長からね、勝又さんは真面目で丁寧な仕事をしているって聴いてるよ。他人に対しても面倒見が良いって聴いてる。だから、福王子君の面倒を見てやってほしい」

「要は、あいつの尻を叩いてやってほしいんだ」

社長と部長に言われて。

どう、返事していいのかわからなくなった。
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