【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
立ち止まるとき

いつものように、彼が帰ってきたのは玄関のドアが開く前からわかった。
自室から出て、一臣さんを待つ。
鍵穴に鍵を差す音すら力ない気がするのは、私も同じ状況だからだろうか。ひと呼吸置いて、ドアが開いた。
「お帰りなさい」
一臣さんは、見るからにくたびれた様子で入ってきた。
「ただいま」
「……いかがでしたか、お父さま」
「うん、そうだな。あまり語りたがらない様子だった」
廊下に上がり、私に微笑みかける。
「……俺たちも、少し話そうか」
「はい、あの、なにか召しあがりませんか」
結局、当然ながらレストランでは食事はできなかった。
母も、一臣さんのお父さまも、顔合わせを続けられるような状態ではなかった。それぞれ、互いの親を家まで送り届けることにして、解散した。
すでに部屋着の私を、ぴしっとしたスーツ姿の一臣さんが見下ろす。『どのネクタイがお母さん好みかな』なんて会話しながら出かける支度をしたのが懐かしい。
「なにかと言っても、私が作ったオムレツなんですけれど……」
「用意してくれたのか」
「ほかに、することもありませんでしたから」
春ですし、と服装のことなどなにもわからない私が無責任に勧めた淡いブルーのネクタイ。彼は迷わずそれをつけた。
一臣さんが、優しく私の肩を叩いた。
「ありがとう。いただくよ」
お父さまが暮らしている都内の家は、一臣さんが育った家ではないらしい。転勤族だったのなら、それもそうだ。
そういえば彼が「実家」と口にしたのを聞いたことがない。
オムレツを温め直す間、そんな話をした。ワイシャツ姿のままダイニングテーブルについた彼が、「うん、言わないな」とうなずく。
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