優等生の恋愛事情

◇ふたりが浴衣に着替えたら


夏祭りなんて最後に行ったのはいつだろう?

そりゃあ、神社は好きだけど。

お祭りって、あまり一人で行くものじゃない。

一匹狼よろしく淡々と中学時代を送っていた私には、友達と誘い合って行くなんてあるはずなかったから。

そんな私が今年は夏休みを思い切り楽しんでる。

まさか、彼氏ができるなんて。

まして、浴衣デートに出かけるなんて。


「諒くん」


待ち合わせ場所へ着くと、やっぱり彼は先に来て私を待っていてくれた。

本当いつも思うのだけど、この瞬間に見せてくれる彼の笑顔が大好きだ。

ずっとずっと会いたくて、やっと会えたみたいな、そんな表情。


「浴衣、着てきてくれたんだね」

「諒くんもね」


どちらからともなく自然に手をつないだ。

もちろん歩くときは、右側が彼で、私が左側。

駅から神社へつづく通りは賑々しい活気にあふれ、どこか懐かしい祭り囃子が遠く聞こえた。


「浴衣、やっぱり似合ってる。いつも可愛いけど今日はもう特別って感じだね」


諒くんは私を臆面もなく褒める。


「本当、すごい可愛い」

「あ、ありがと……」


こういうの、やっぱりまだ慣れない。

でも、私にはちょっと考えたことがあった。

ひとつは、嬉しい気持ちを素直に伝えようってこと。

だって、他の誰でもなく彼の言葉だもん。

客観的に(?)私が可愛いかどうかとか、気にしすぎるのはよそう、って。

せっかく彼が「可愛い」って言ってくれるのに、自分を卑下してばかりじゃね、って。

そして、もうひとつは――。


「諒くんも、よく似合ってる」


言ってもらってばかりじゃなくて、私もちゃんと言葉にして伝えるんだ。


「浴衣姿、とっても素敵だよ」


褒めることも褒められることも、まだ慣れない。

待ち合わせで待たれることにも慣れてない。

初めての恋は本当、不慣れなことばかり。

でも――すごく新鮮でドキドキする。

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