Fairy
『 待ってたよ。 』





アルバイトを終えて、家まで帰ろうと夜の道を一人で歩いていた時。
ふと、後ろに人の気配を感じた。

一度振り返ったものの、誰も見当たらない。
ふぅ、と安心のため息をついてから再び歩き出すと、また微かに、小さな足音が聞こえてきた。




ここで私は、誰かに付けられている、と確信した。

…実は、数ヶ月ほど前から、ストーカー被害に遭っている。


初めは、通っている大学のロッカーの中に入っていた、一つの紙切れだった。ノートの切れ端のような紙に、乱雑な字で " 愛してる " と書き殴られていて。
それからというもの、非通知からの電話が鳴り止まなくなったり、持ってきていたはずのハンカチやペンがなくなったり…。

最近では、毎日のようにロッカーに紙切れが入れられている。







「 誰よりも君のことを愛してる 」

「 君を守れるのは僕だけだから 」

「 早く僕のものになってよ 」

「 今日も可愛いね 」

「 昨日はバイトお疲れ様 」

「 シャンプー変えた?いい匂いだね 」






毎日毎日、常に私のことを観察しているような文字が並べられた紙切れ。
私はそれを、ゴミ箱に捨てるのが日課になっていた。

警察に行ったところで取り合ってもらえないだろうし、友達には迷惑を掛けたくなくて、誰にも相談出来ずにいた。
そして今、そのストーカーが私の後ろにいるかもしれない。


梅雨のジメジメした時期な為、恐怖と共に自然と汗が吹き出す。私が少し早歩きになると、後ろから聞こえてくる足音も同じように早歩きになる。

怖くなって、私は家には向かわず無我夢中で走った。
家を知られたらまずい、もっと酷いことをされてしまうかもしれない。恐怖と焦りに襲われた私は、泣くことも忘れながら、ガクガクと震える足を必死に動かして走った。
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