Fairy
『 君は、紅がとても似合う。 』





あれから何も言わずに、私の手を引いてずっと歩いている彼。一見細く見えるその身体は、雨のせいでシャツが透けていて、意外とがっちりしているということが分かった。

それに、昨日よりも私の腕を掴む力が強いことにも、気が付いていた。


随分歩いた気がするけど、周りを見回すとこの薄暗い街のままで。そして彼は、さらに奥へ奥へと足を進める。
するとその奥、探そうとしない限り見つからないような場所に、周りの店に混じってポツン、と、真っ黒な建物があった。なんとも言えない、無意識に引き込まれてしまうような雰囲気を纏っている、大きくも小さくもないその建物。

彼は何も言わずに、私から手を離してポケットに手を突っ込む。



…今なら、逃げられる。




『 逃げちゃ駄目だよ。 』




そう思った瞬間に言われた言葉に、大袈裟に身体がビクンと跳ねる。

…怖い。どうしよう、今から何をされるんだろう。
その言葉で頭が埋め尽くされていると、彼はポケットの中から鍵を取り出して扉を開けた。
扉の隅に小さく " Fairy " と、目を凝らしてみなければ分からないように彫られているのを見つける。


Fairy…それって、昨日男の人達が言ってた名前だ。

誘導されるがままにその建物の中に入ると、部屋の中は見た目とは違って、案外綺麗な作りになっていた。
黒を基調とした作りになっていて、靴を脱いで連れて行かれた部屋に入ると、恐らくそこはリビングのようなところで。

大きなテレビの前に、黒いソファー。
そのソファーに座っているのか、銀色の髪が見える。
銀色の髪の男性が『 おかえり〜、遅かったね。 』と、またしても能天気な声で言う。彼はそれに対して、柔らかい声で『 ただいま。 』とだけ答えた。




『 で、やっぱり来たんだ。その子。 』




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