Fairy
『 目一杯、愛してやってくれよ。 』





『 ただいま〜。 』

「 …もう、何度言っても揃えないんだから。 」




遊びから帰ると、乱雑に靴を脱ぎ捨ててリビングへ向かってしまう游鬼さん。
晴雷さんも狂盛さんもちゃんと揃えてるのに、相変わらず片方ずつバラバラに置かれた游鬼さんの靴。少し文句を言いながらもそれを直して、私もヒールを脱いでリビングへと向かった。

どうやら游鬼さんは、先程会った青年のことをちらっと話しているようで、晴雷さんも『 うん、うん。 』と相槌を打ちながら聞いている。
狂盛さんはもう部屋に戻っているようで、少しだけホッとしながらソファーに腰を下ろした。




「 …大学、どうしよう。 」




付けられただけのテレビ画面に視線を向けたまま、溜息のようにして出てきたその言葉。
そう言えば、游鬼さんと遊びに出かける前もこんなことを考えてたんだっけ。



佐野くんの顔を思い出すと今でも胸が痛いし、あの場所に行こうとは思えない。

すると、私の小さな呟きを聞いていたのか、游鬼さんが鉄の匂いを纏いながら、私の隣にドカッと腰を下ろした。
勢い良く座るものだからソファーが弾んで、少しだけ私の体もぐらりと揺れる。




『 辞めちゃったら? 』

「 …けど、せっかく二年は通ってきましたし。ここで辞めるのも勿体ないな、って。 」




そう。一応夢は無いなりに、二年は通ってきた。

夢なんてものは、大学に通っている最中で見つければいいと思っていたし、そんなに先のことを深く考えたことなんてなかった。




『 大学なんて、大して学ぶことないでしょ。 』

「 そうですか? 」

『 いや。俺、大学行ってないから分かんないけど。 』




何だ、行ってないくせにそんなことを言ったんだ。
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