Fairy
『 …泣けますよ、きっと。 』
『 震えてんな。そんなんで仕事出来んのか? 』
突如目の前に現れた、桜翅 心。
初めて目にした彼の威圧に、私は声を発することさえできなかった。
脱ぎ捨てた仮面を蹴り飛ばし、一歩一歩私に近づいてくる。
逃げてはいけない、立ち向かわなくてはならない。頭ではそう分かっているのに、どうしても身体が言うことを聞いてくれないのだ。
彼が私に近づく度に震えが増し、汗が額を伝う。
先ほどまでの優しい声や口調はどこへ行ったのか、そこにいるのはただの " 殺し屋 " だ。
『 俺が、お前の顔と名前を把握していないとでも思ってたのか? 』
その言葉に何も答えられないでいると、彼は思い切り私の髪を掴んだ。容赦ない力に身体がすくみ、力が入らなくなってしまう。
そしてそのままベッドに引きずられると、彼は、私の上に跨った。
黒く濁った瞳に見下ろされ、低く乾いた笑いに蔑まれ、気分が悪いなんてものじゃない。
《 紅苺、落ち着いて。今は……、 》
無線から晴雷さんの声が聞こえると、桜翅は、私の耳からそれを外してしまった。
返して、と必死で手を伸ばすも、それは彼の手によっていとも簡単に潰されてしまう。
晴雷さん達の声が全く聞こえなくなった今、私は何をして、どうやってこの人を殺せばいいのだろう。
彼は『 こんなもんまで付けて、意味があると思ってんのか? 』と、私の首にあるネックレスを引きちぎる。
音を立てて床に落ちたそれは、もう何も映してはいないだろう。
「 …殺すんですか? 」
『 誰をだ? 』
「 私を……渢さんを。 」
『 どうすると思う? 』
私の問いかけには答えず、楽しそうに笑う彼はどこか狂気を感じさせた。
片手で私の両手を押さえつけ、もう片方の手で私の顎を乱暴に掴む。