北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
-点火-
 6日ぶりの小野里邸は、あいかわらずの傍若無人ぶりだった。要るのか要らないのかわからないモノが、増えてもいないかわりに減ってもいない。
 これでほんとにわたしの寝場所があるの?
 あったとしても生理的にムリな感じの代物だったらと思うと、凛乃はずしりと重くなってくる頭を押さえた。
 トランクルームに支払える限界値を鑑みると、どうしても手放したくなかったインポートのドレッサー以外の家具は、ほとんど処分せざるを得なかった。かさばる寝具一式も、もうない。それでも倉庫は小型家電や服や捨てられないモノでいっぱいだから、今夜寝るならここしかない。
「とりあえず、ここに置かせてください」
 出迎えた累の許可を取って、凛乃は当面の生活用品を詰めた大きなスーツケースを玄関に残したまま、家に上がった。
 脚が痛くて重い。タクシー代節約のために駅からここまで15分、転がしてくるだけでかなりの重労働だったし、昼下がりの街中でむやみに注目を浴びてしまった。スーツケースのキャスターも崩壊寸前。やっぱり破談、となっても、もう行き場はない。小野里邸は郊外にあって、駅前にはビジネスホテルもカプセルホテルもなかった。
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