My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
第三部

1.北の地




「ふぇ……っくしょぃ!」

 震えと共に全身に鳥肌が立つ。
 厚着をしているとは言え、思わず両腕で自分の身を抱き締めていた。

「大丈夫か? カノン」

 後ろからの気遣わしげな声に私は苦笑しながら振り返る。

「うん、どうにか。セリーンは?」
「私は鍛えているからな、平気だ」

 そう言うセリーンも流石にいつもの露出度の高い格好ではなく、私と同じく先日立ち寄った街で購入した防寒服を着こんでいる。

 ――フェルクレールトを発ってから5日。
 今、目の前には白い世界が広がっていた。

 空一面を覆う厚い雪雲の下、真っ白な布を掛けられたような山々。
 その間を縫うようにして私たちを乗せたビアンカが悠々と飛んでいく。
 どこまでも続くその白い風景はまさに絶景だったが、想像以上の寒さに景色を楽しんでいる余裕なんてなかった。
 おそらくそろそろ目的地に到着するはず……いや、一刻も早く到着して欲しかった。と。

「おい、そろそろエレヴァートだろう」

 急に、セリーンがそんな大きな声を上げた。その視線は私の前にいるラグに向けられていた。

 “エレヴァート”とはストレッタのある国の名。
 ランフォルセに比べるととても小さな国で、しかしストレッタの名のお蔭で今このレヴールで一番の権力を持った国。

 この山脈を抜けた先がそのエレヴァートらしいのだけれど……。

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