甘やかされ婚~年上の旦那様は、獣な本性を隠している~
数時間前、勤務に就く前の申し送り。
日中オペを受けた患者さんの人数を聞いて、思わずそう零したことを思い出す。


「うん。気が抜けないけど、思ったより穏やか」


私がそう答えると、向かい側に座っていた先輩、牧野(まきの)さんが、軽くテーブルに身を乗り出してきた。


「で? 今夜の『愛妻弁当』はなに?」


ニヤニヤと、軽い口調でからかってくる。
私は、「はは」と苦笑しながら、スープジャーとスプーンを取り出した。


「今日は、鯛茶漬けって言ってました」

「うお~、贅沢」


牧野さんが大袈裟にボヤくのにつられて、他の先輩たちも、私のスープジャーに注目する。


「お茶漬け? 中、どうなってんの?」

「生のお米に、熱い出し汁を注いであるだけです。私の休憩時間を計算して用意してくれたんですけど、今日はちょっと遅くなったから、もしかしたらお粥に近くなってるかもです」


私の手元を、興味津々に見守る先輩たちに、そう説明する。
私も、出来具合を想像してやや緊張気味で、そおっと蓋を開けた。
途端に、ほんのりと漂う、優しい出し汁の香り。


「わ、いい匂い!」


それに引き寄せられるように、先輩たちがわざわざ腰を浮かして覗き込んできた。
みんなの視線を一心に浴びて、中でスプーンをくるっと回してみる。
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