六月に入って最初の金曜日は、蓮君の三十四回目の誕生日だ。
結婚して初めてのイベントらしいイベント。
私は、前もって希望休を入れて、二連休をもらっていた。


本当はサプライズにしたかったけど、あいにく平日。
言っておかなければ、蓮君は普通に仕事を入れてしまう。
だから私は、六月のシフトが出てすぐ、蓮君にお祝いを持ちかけていた。


そして、当日。


「一つだけ、どうしても動かせない打ち合わせがあって。三十分くらいで済むから、真由、一緒においで。終わったら、そのまま出かけよう」


お昼ご飯の後、蓮君はそう言って私を連れ出した。
彼の愛車、アルファードに乗って向かった先は、東京のオフィス街の一等地。
丸の内の中でも、聳えるように高いオフィスビルだった。


何度も訪問しているクライアントなんだろう。
蓮君は、グランドエントランスの総合受付でスマートに入館手続きを終え、私の手を引いて高層階用エレベーターに向かって行く。
三十階で降りると、迷うことなく廊下を右に折れ、金色の文字で『三雲設計』と書かれたプレートがついたドアをノックして、中に入った。


「こんにちは。倉橋です」


ここでも、受付に声をかける。
キリッとした制服姿の受付嬢は、蓮君の顔を見知っているのか、「こんにちは」とすぐに相好を崩した。