シュガーレスでお願いします!
1.モンブランの頂で愛を嘆く

例年より随分と暑かった8月が終わり、暦の上ではもう秋だというのに、巷を賑わせている異常気象のせいか、ここのところ汗ばむ陽気が続いていた。

政府によってクールビスが推奨されてからというもの、ジャケットにネクタイといったフル装備のサラリーマンを夏場に見かけることは減ったけれど、職場へと向かう道すがら汗を拭うハンカチはまだまだ手放せない。

朝晩に吹く風にようやく秋の気配を感じられるようになったのは、9月も半ばを過ぎた頃である。

街を歩くOLの袖丈がノースリーブから七分丈に変わるのを見ると、ようやく夏の終わりを実感した。

(もうすっかり秋だな……)

なにぶん、こちとら年がら年中スーツを着ているので、まるで季節感がない。

小洒落たオフィスカジュアルで華々しく横断歩道を歩くOL達を横目に、私はダークグレイのパンツスーツを上から下までかっちり着こなし、黒革のパンプスをカツカツとかき鳴らす。

ついこの間、夏が始まったと思えば、もう秋だ。

忙しさにかまけて、夏らしい行事を軒並みスルーしてきた私にとって、秋の訪れは些か早すぎるように思えた。

この調子だとあっという間に冬が来そうだなと、ひとり苦笑しながら、駅から歩いて5分のところにある職場へと急ぐ。

しかし、余計な心配をしなくとも私の勤務する奥寺法律事務所にもちゃんと秋の風物詩がやってきたのである。

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