シュガーレスでお願いします!
5.愛してるの必要性
占いは信じない主義だけど、今日ばかりは自分の運勢の悪さを呪いたくなる。
「妻の居場所を教えてください」
面会室は朝から不穏な気配で満たされている。
招かれざる客がやって来て、貴重な午前の時間を我が物顔で占拠しているなんて、これを最悪と言わずしてなんと言う。
(ついに来たか……)
葛西さんを別の場所に避難させ、秘密裏に引っ越しを行ったことがとうとう明るみになったらしい。
それが私の指図だということまで、嗅ぎあてるとはなかなか勘が鋭い。
葛西さんの夫はどこから見ても爽やかな好青年だった。
細身のスーツに身を包み、清潔感のある短髪を無造作にワックスで撫でつけ、人のよさそうな笑みを浮かべて椅子に座っている彼は、パッと見ただけでは暴力を振るう人間にはとても思えない。
冷静を装っているが、その実はらわたが煮えくり返っていることだろう。
その証に彼は当たり前のごとくアポイントもとらず、いきなり事務所までやってきたのだった。