高嶺の花沢さんは恋の仕方がわからない
10*素顔は独り占めすればいい
「お先に失礼しまーす」

「はい、お疲れ様でしたー」

この場にいるのは、私と西口くんの2人だけになった。

パソコン画面の時計に視線を向けると、8時を過ぎたところだった。

よし、心の準備はできた。

後は西口くんに声をかけるだけだ。

落ち着いて、いつもの調子で、声をかけるだけだ…。

…いつもの調子でって、名字じゃなくて名前でいいのか?

その辺りを考えていなくて、私は戸惑った。

でもこの場にいるのは私と西口くんの2人だけだから、名前で呼んでもいいよね…?

そう覚悟を決めると、
「輝明さん」

「蜜実さん」

私と西口くんの声が同時に重なった。

「あっ…」

「えっ…」

何とも言えないタイミングに、私たちは口を閉じた。
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