キミの嘘
★★
          ★




あの夏の日
・・・・私は一つの嘘を付いた。





******



縁ときょうだいになって10年目の夏。
わたしは高校1年になり
縁は高校2年になっていた。



両親同士が再婚して10年。

同じ屋根の下で暮らして10年。
よくある家族

よくある兄妹


これからもずっとそれは保たれるのだと思っていた。


私の縁への気持ちに違和感をだんだん感じ始めたのは中学生のころ・・
縁が中等部から高等部へ進学したころ・・その違和感はだんだん確信を帯びてきていた。

ずっと・・・
兄と妹という均衡は崩れることなく保たれていて、
それを脅かすことは、ダメなのだと思っていた。




自分の勝手な思いで・・・今の形を崩したくない。

幸せそうに笑うお母さんの笑顔を奪いたくなかった。

すべてを曝け出したら壊れてしてしまう。
・・・・側にいることすら叶わなくなる。

だから、
勘違いだって。

こんなこと違うって思うようにしていた。

それなのに。

自分でもわからない、
理由なんてわからない。

自分の感情に抗えば抗うほど

・・・縁に惹かれていった。

休み時間
放課後
家の中

縁のことばかり、目で追いかけていた。

好きだと自覚するのに時間はかからなかった。



理性と常識は紙一重。

好きになって
好きになりすぎてどうしようもないときは
必死で、縁は「お兄ちゃん」なのだと
自分の気持ちに蓋をしていた。

自分の素直な気持ちを伝えて
拒絶されて
なにもかも壊れて・・・側に入れなくなるのなら

「縁の妹」として近くにいることを選んだ。

妹なら
側に居られる、何があっても。
一緒に笑いあえる。


そんなふうにいつも
自分の溢れてくる気持ちを誤魔化すように過ごしていた。

・・・・・・・



はじめて・・二人の均衡が、崩れそうになったのは
陽射しが強くなり始めた7月。

お父さんとお母さんが結婚式に招待されて一緒に出かけた土曜日の夜。
結婚式は遠方だから、土日一泊してくると言って出かけていった。

バスケ部に入っていた縁は、夕方まで部活をして
私は、友達と映画を見たりして過ごしていた。


その日の夜

縁とテレビを見たり
お母さんが用意してくれた夕食を食べたり
二人でレンタルしてきた映画を観たり
とりとめもなく話をしたり
いつもと変わらない時間を過ごしていた。



ブルル・・


私のスマホのバイブ音が鳴ってディスプレイを見る。


「もしもし?あっ、橘くん?」

クラスメイトの橘くんだった。
来週の体育大会のことで、連絡事項を伝えてくれた。

橘くんとは同じ係で、昨日の体育大会の役員会議で検討したことに関する最終確認だった。


まじめでやさしい橘くん。
昨日の会議で、まとまらない意見もひとつひとつ考えていい方向に向けてくれた。
体育大会までまとまらないかも・・と思っていたから安心した。

「うんうん、それでいいと思うよー。ありがとう、橘くんのおかげで助かったよ」

体育大会の話や来週の数学の小テストの話とかとりとめない雑談をしばらくしてから
じゃぁねー、また学校で。とスマホを切る。

その直後、

「だれ?橘って」

右となり斜め少し上からいつもより、ひどく冷たい声が聞こえた。


「えっ、あ・・クラスメイトだよ。来週の体育大会でおなじ係になってて・・・。

「・・・・・・」

「昨日会議があって、その時のことで連絡してくれたんだ」
「・・わざわざ電話してくるようなことなの?」

「・・・会議でわからなかったことだったから・・」
「・・・別に月曜に学校で言えばいいことはじゃねぇの?」
あまり聞いたことない縁の声にびっくりした。

縁が今までにないくらい鋭い目つきで私を見ていた。

怒ってる?

怒るようなことした?

ドキドキ・・・

胸の高鳴りは罪悪感なのか
それとも縁のまなざしから感じる緊張のせいなのか。


なんとなく、縁の顔がみれなくて目をそらす。
「・・私も気にしていたから教えてくれたんじゃないの]


おもわず小声になる。

「ふーん。・・・仲よさそうじゃん。」
「そ、そんなんないよ。」

クラスメイトの橘くんとは同じ体育大会の役員として最近、多く話するようになった。
関わることが増えて橘くんの人望も人気もあることがわかった。

優しい顔たちで
性格もいいからクラスの女子にも人気があって、男子にも頼られていつも彼のまわりには人が集まっていた。

たぶん・・私の心に誰もいなかったらひかれていたかもしれない・・。


「あーゆーのが好きなの?杏は」
「えっ・・」

縁の言葉にびっくりする。

「あーゆータイプが好きなの?」
「・・・・・そ、そういう縁だって、2年の河崎先輩と仲いいじゃん~。」
「・・・何それ」
縁の顔が怖い。
直視できなくて横を向く。

「う、うちの学年でも噂なってるよ。河崎先輩と縁のこと!」
「・・・・・」
「バスケ部マネージャーなんでしょ?・・私も見たことあるよ。」
「・・・・・」
「部活で、縁と仲よさそうに話ししてるもんねー。」
「・・・・・・」

2年で美人だといわれている河崎さん。
縁が入部しているバスケ部の美人マネージャー。
何度も縁と仲良さそうに話しているのは見かけたことがある・・何度も。

噂になっているのも・・わかっていた。
そして
私のカンが当たっていれば・・河崎先輩も私と同じ人を思っている。

イライラする・・・。
縁に橘くんとのこと言われる意味がわからない。
縁だって、私の知らないところで仲良くしているのに・・。


「美人だもんね~。いいんじゃない?・・・男の人、きれいな人好きだもんね」

「・・話をすり替えるなよ。俺のことじゃない。」

「・・・・・・・」

「今聞いているのは、杏のことだろ」

縁の口調がだんだんきつくなる。


「・・・橘くんのことは縁には関係ない」

橘くんはただのクラスメイトで何とも思っていない・・
そう答えればいいだけの話。
でも、それを言わないのは私の意地。
縁への当てつけ。

橘くんとそんな事実なんてないのに、さも事実があるかのように振るまうことがで縁を試している・・。

「・・・・・・」

こんな試すようなことしたって、
縁が私のほしい言葉を言ってくれないなんてわかっている。

期待するような言葉なんてもらえないことも・・。



・・・・

長い長い沈黙。
自分の胸の音だけが耳に響く。


隣に座っている縁のほうを向けない。
縁が今どう思っているのかわからなくて


怒っているのか
あきれているのか
それとも・・・

縁の表情がわからないから・・どうしたらいいのかわからない。

あんなこといわなければよかった。

自分のしたことにだんだん後悔してきて
隣にいるのが辛くなって

私は先に寝るねと縁に伝えてソファーから立ち上がろうとした。

そのとき、
急に右腕を引っ張られて、
気が付いたら縁の胸の中だった。

「、、、?!」

一瞬何が起きたのかわからなかった。

すぐに
ぎゅっと力強く抱きしめられた。


小さいとき、
私がいじめられっ子に泣かされたとき
よく、縁がこんな風に抱きしめて慰めてくれた。

だんだんと大きくなって
こんなふうに、抱きしめてくれることもなくなった。


ふと・・昔のことを思いだした。


久しぶりの縁の胸の中は
小さい時の記憶にある細い体ではなく
程よく筋肉のある
力強い男の人の体だった。

そして変わらない
大好きなお日様のにおい。


何も話しない縁。
動けない私


最初に沈黙を破ったのは私だった

「・・・縁?」
「....」


ドキドキする。
きっと、顔まで赤い。

どうしたの?
なんで抱きしめてるの?





「縁?」
「、、、杏。」

縁と目があったとき

離れないといけないと思った。



・・・・・均衡が崩れる。





「離れないで、杏」
「縁・・・」
再び抱きしめられた縁の力は、とても強かった。

「杏・・・オレ以外の男と仲良くしないで。」
「・・・・」

縁の掠れた声が私の心臓の鼓動を早くする。
どきん・・どきん・・


「えっ、、、」

「俺は河崎さんとは何もないよ。彼女のこと何とも思っていない」
「・・・・・」

さらに縁の腕の力が強くなる。


「・・・前から聞きたいと思っていた。杏がオレのことどう思っているのかということ。」
「どう・・って・・・大切な・・・家族だよ」

チクン・・
胸に痛みが走る。



「・・さっき、あいつのこと聞いたのは、違うって否定してくれるのかなと思って聞いた。」

「・・・・・」

「もしかしたら杏と俺は同じ気持ちなんじゃないかなって思った。」

「・・・・・・」

「だから確かめたかった。・・杏の好きなやつが」
「ダメ!、、、お願い、言わないで。」

「・・・・」

「、、お願いだから、、、言わないで・・このまま壊さないで。、、、お兄ちゃん」


私は泣きながら縁の口を手のひらで押さえた。

「杏・・ずるいよ。こんなときだけ、兄呼ばわりするのは」

縁がつぶやいたのが耳から離れなかった。
つらそうな・・かなしそうな表情を縁は・・していた
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