極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
卵サンドの似合う女
◇◇◇

秋雨がしとしとと振る中を、実乃里は傘とビニールをかけた紙袋を手に歩いている。

勇ましい顔つきをしているのは、今日こそ龍司に、首を縦に振らせてみせると意気込んでいるせいだ。


若頭というのは仮の姿で、実は潜入捜査官であったという秘密を知ったのは、二十日ほど前のこと。

実乃里は子供の頃から、こうと決めたら即行動に移すタイプで、ビルの屋上で話を聞いてしまった翌日に早速、告白していた。

ひとりでモーニングに来店した龍司に卵サンドを出した後、なんの前置きもなく『好きです。私と付き合ってください』とストレートに交際を求めたのだ。

マスターや洋子、常連客たちに驚かれたが、実乃里は気にしない。

言わなければなにも始まらないという、いささかせっかちな勇気が、恥ずかしさや緊張、ふられる怖れなどを凌駕したのである。


龍司の答えはノーであった。

『寝ぼけてんのか』と真面目に取り合ってもくれず、卵サンドを食べ終えた彼は気怠げな態度ですぐにロイヤルを出ていった。


がっかりはしたものの、それくらいで諦める実乃里ではない。

欲しければ努力あるのみという前向きな精神で、それ以降も差し入れを手に猿亘組の事務所を訪ねては、龍司に告白を断られ続けている。

そして今も、数種類のサンドイッチにエビフライ、フライドチキンなどを手作りし、事務所に向かっていた。


(龍司さん、いるかな。いなかったら差し入れだけ一尾さんたちに食べられて、損しちゃう。材料費はバイト代から引かれてるのに……)


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