嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
7話「夜の電話」





   7話「夜の電話」




 着物を脱ぎ、湯船に浸かり、緋色は気持ちを落ち着かせた。暑い日でも、お風呂入ると気分がゆったりとするから不思議だ。

 緋色は目を瞑りながら、今日の出来事を思い出す。いつもと同じ事を繰り返す、平凡な日々を生きてきた緋色にとって、今日は大事件のように目まぐるしい1日だった。運命を変える日、とってもおかしくない日になったのだ。

 父である望に頼まれたお見合い。相手との相性の悪さや、結婚への不安から緋色はその場を逃げ出した。そこで出会ったのが、泉だった。逃げるのを助けてくれて、傷の手当てまでしてくれた。そして、初めて会ったはずなのに、緋色が見合いを嫌がっている話すと、突然結婚を申し込んできた。
 そして、望にもそれを伝え、あっという間に本当に結婚する話しになってしまったのだ。


 「どうして、私なんかと結婚しようと思ったんだろう。楽しくなんかないはずなのにな。」


 緋色はため息混じりにそう呟く。
 読書好きで、休みの日は図書館や本屋に行ったり、カフェでお茶を飲みながら本を読むのが好きな地味な生活だった。今、流行りのものなどはわからないし、SNSなどにも全く興味がない。そんな自分が年下の男にプロポーズされるなど、全く想像していなかった。
 社長令嬢のため、お金や地位が目的の人が集まってきた事もあるけれど、彼はそのどちらも持っているようだったので、それには当てはまらないだろう。
 となると、泉は何故緋色に興味を持ってくれたのか。

 彼が小説家で、ネタになる出会いと結婚だからと話したのも少し納得は出来る。
 けれど、泉の表情や態度から、緋色にはある考えが芽生えていた。


 「………もしかして、記憶がなくなる前の私と知り合いだったの?」




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