冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
第四章 消去したはずの過去
第四章 消去したはずの過去


彩実と諒太の新居は、閑静な高級住宅街に建つ白石家所有のマンションだ。

結婚式の準備と同時に引っ越しの準備も進めたせいでかなり忙しかったが、白石家から派遣された業者によって必要なものはすべて搬入され、彩実の荷物もすでに整理されていて、五LDKの家の中には段ボールひとつ残されていない。

マンション以外にも使っていない土地がいくつもあるということで、結婚を機にそこに如月ハウスの家を建てる話も出たのだが、婚約から結婚まで三カ月というあっという間の展開だったために、いったん手持ちのマンションに住むことになったのだ。

緑が多い静かな住宅街に建ち、セキュリティ対策が万全の五階建ての中層マンションだ。

各階二戸だが、最上階の五階は彩実と諒太が住む一戸だけで、他の住人が訪れることはない特別なフロアだ。

「なんて冷蔵庫を開けるのが楽しいんだろ」

彩実は冷蔵庫の中を覗きながら、弾んだ声をあげた。

ほとんど眠れない夜を過ごした彩実は、いわゆる新婚初夜だというのに出かけたまま帰ってこない諒太に腹を立てながら、朝食の準備をしていた。

諒太の実家の家政婦が事前に冷蔵庫に食材を詰め込んでくれていたおかげで、大抵のものは作れそうだなと、彩実はワクワクしながらあれこれ取り出していた。

如月家にも家政婦はいるのだが、彩実は気分転換に料理をするのが好きで、普段から食べたいものを自分でささっと作って食べている。

「あ、分厚いベーコンがある。じっくり焼いて食べようかな……エシレバター発見」

彩実は冷蔵庫の奥から大好きなフランスのバターを取り出した。

フランスに行くといつもパンにたっぷり塗って食べているのだが、おいしいのはもちろん、昔ながらの製法で丁寧に作られているのが気に入って、日本でもよく食べている。

丁寧に作られているというのが小関家具の商品に重なるところがあり、そこも気に入っているのだ。

有名ブランドのコーヒーメーカーもキッチンにあるのだが、勝手に使っていいかわからず、冷蔵庫に入っていたアイスコーヒーをグラスに注いだ。

手早くサラダも作ってテーブルに並べるが、なかなか気持ちは盛り上がらない。

大好きなエシレバターを前にしても……だ。

「これからずっとこうしてひとりで食事をするのかな……」

テーブルに頬杖をつき、ため息を吐く。

< 120 / 157 >

この作品をシェア

pagetop