冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
諒太は彩実以上に強い力で抱き返し、おまけに額に何度もキスを繰り返している。

キスをするたび「ごめん」と繰り返す言葉がくすぐったくて、彩実は体をよじった。

過去のつらい思い出に落ち込んでいるというのに、時折笑い声をあげている自分が不思議でたまらない。

キスを避けるように諒太の胸に顔を埋めると、頬に触れるシルクのパジャマの極上の肌触りに、徐々に心は落ち着いていく。

彩実の笑い声を聞いてひとまず安心した諒太は、彩実の反応を気遣いながら口を開いた。

「二度とあの男の声を聞くことはないから、安心しろ。あんなろくでもない男の言ったことは忘れてしまえ。ICレコーダーなら、リビングの花瓶の中に沈めておいた。二度と電源が入ることはないから安心しろ」

「……え?」

きっぱりと言い切る諒太の声に大きく反応した彩実は、少し間をおいておずおずと顔を上げた。

「諒太さんが、花瓶に放り込んだの?」

「ああ。あんなくずの声なんて二度と聞きたくもない。如月家に入り込むためなら彩実でも晴香さんでもどちらでもいいなんて、よくも平気でそんなことを」

本気で頭にきているのか、顔をまっ赤にし、唇をかみしめている諒太に、彩実は戸惑った。

「あ、あの」

「それに、彩実を孕ませるのは、俺だ。ほかの男が彩実に触れるなんて、考えるだけで腹が立つ。くそっ」

最初は彩実の反応をうかがいながら話していた諒太だが、次第に気持ちが高ぶり、彩実を胸に抱いたまま大声をあげている。

「は、孕ませるのは、俺……」

諒太が荒げた声で口にした言葉に、彩実は「きゃー」とつぶやき、じたばたした。

あの男にそう言われたときは、恐怖を感じる以上に気持ちが悪くて吐きそうになった。

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