同窓会〜あの日の恋をもう一度〜

名前で呼んでくれないかな

 案内されたのは、個室になってるスペースだった。
 個室はなかなか予約の取れないと誰かが言っていた様な気がする。一体どんな裏技を使ったのだろう。
 
 スタッフが席を離れたので、私はようやく緊張の糸が切れたかの様に身体の力が抜けた。
 そんな私の様子を面白そうに坂本は正面から見つめている。

「そんなに緊張しなくていいよ。ここには俺と西田……。結衣と二人だけなんだから」

 何気に名字を名前に言い直した坂本に、私は再び緊張して顔が赤面してしまった。
 結衣って名前で両親や職場の人、由美以外に呼ばれたからか、妙にくすぐったい。私が他人に対して壁を作っていたせいもあり、みんな私を呼ぶのは名字だから、滅多に名前で呼ばれる事がない。それだけに、こうやって不意打ちで名前を呼ばれると何だか気恥ずかしい。

 恥ずかしくて思わず俯いてしまったものの、坂本はどんな顔をしているのかが不意に気になり、俯きながらも上目で坂本の表情を伺ってみると……。
 視線が合うと、坂本は途端に私から視線を逸らした。
 と思ったら……。
 何と、坂本の顔が途端に真っ赤になった。

 え? もしかして、坂本も照れてる……?

「そんな表情(かお)で見られたら、照れるな……」

 そんな表情(かお)と言われても、自分ではどんな表情をしているかなんて分からない。
 意味が分からずきょとんとする私に対して坂本は何か考え込んでいる様だ。
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