Before dawn〜夜明け前〜

夕暮れに願う


放課後。
各クラスの委員と生徒会役員が決まった初会合。

いぶきの1年A組は、担任からの指名で、学級委員長がいぶき、副委員長が丹下広宗、書記が黒川数馬になった。

丹下は大企業の社長の息子。教師たちは、彼をやたらと贔屓目にするが、当の本人はヤル気なく、学校もサボりがち。
だから、とりあえず副委員長という名目を立てたが、黒川がフォローの役目を担う。

「ヒロのヤツ、さっきまでいたのに、サボりだよ。俺だって放課後忙しいのにさぁ」
黒川は小さくため息をついて、机上の資料をめくった。
ぼやいてはいるが、丹下広宗をヒロ、黒川をクロと呼び合って、2人は仲がいい。だからこそ、丹下は、自分のフォローに自ら黒川を指名した。

今日の会合は、顔合わせ程度で早々に終わった。

「あれ、黒川?
丹下は、やっぱり逃げたのか。アイツはしょうがないな。
黒川も、忙しいのに」

生徒会長、一条拓人が直々に黒川に声をかけた。

「拓人からも、ヒロに言ってやってよー」

拓人が黒川に親しげに話しかけ、黒川は“拓人”と呼んだ。いぶきは、あれ、と思う。
知り合いなのだろうか。

「わかった。オヤジさんの体調は、どうだい?」

「まぁ、変わらないように見えるけどオヤジはすぐ無理するから…
今日、俺、メシ当番なんで、帰るわ。

青山さん、また明日な!」

黒川は本当に急いでいるようで、生徒会室を飛び出して行った。

「黒川も、訳ありだ」

「…⁈」

拓人は、いぶきにしか聞こえない小さな声でつぶやく。
話の流れから、黒川の親と拓人は知り合いのようだったが、何かあるようだ。

「おーい、会長、ちょっとききたいんだけど」

副会長の久我(くが)に呼ばれて、拓人は行ってしまう。

拓人の周りはいつも男女問わず、人が集う。
これが、当たり前のこと。
この間のことが、非現実的なのだ。

いぶきも手元の資料をカバンにしまって席を立つ。

「あぁ、一年生、誰でもいいから、この資料片付けて。一人でいいから…あ、A組の女の子、頼むよ。あとの人は机を片付けて」

副会長の久我に指示され、いぶきは何冊ものファイルを手に生徒会室隣の資料室へと入った。

天井まである書庫にファイルやダンボールがギッシリとしまい込まれている。ホコリも山のようだ。
高い所へ戻したり、ファイルの位置が間違っていたりして、いぶきは少々手間取ってしまった。

やっと最後の一冊を片付けて、生徒会室へ戻ろうとした。

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