哀夢
 わたしはその日、バイトまでの時間を、洗濯したりしながら過ごしていた。

トントン……。

ん?今誰か来た?……洗濯機の音でよくわからなかったので、わたしは玄関近くで聞き耳を立てる。

「岩田さーん。」

 やっぱり…。わたしが玄関を開けると、そこにはスーツを着たおじさんが2人立っていた。

「岩田真さんのお宅ですよね?」
「はい。」

 ここで、嘘をつく理由もなかったので、わたしは素直にそう答える。

「岩田さんはご在宅ですか?」
「彼は今仕事に行ってて…。」

 わけがわからないまま、そう答えると、スーツの男達は、赤い紙の入った封筒を、

「じゃぁ、岩田さんが帰られましたら、渡しておいて下さい。」

と、わたしに渡して帰って行った。

 真が帰ってきて、封筒を渡すと、中を見た彼は、突然怒り出した。

「愁、なんで勝手に出たん?」
「だって、洗濯機まわしてたし、窓開けてたから…。真、あの人達誰なん?」

 真は、頭を掻きむしりながら、
「裁判所の奴等だよ!借金のカタに全部取られるんぞ?愁のせいやけの!」
と、ふてくされる。

 わたしは、悪いことをしたんだ。……と、落ち込んだ。わたしのせいで、真に迷惑をかけてしまう。どうしたらいい?

 でも、所詮は15〜16歳のガキ。借金も、なんで、それで車が無くなるのかもわからない。わたしは、父に電話する。

 父は、ヤレヤレといった感じで、
「ん、わかった。次に来たら、全部お父さんの名義やけ、彼の物ありません。ちゆっとけ。そしたら向こうが勝手に自己破産の手続きするやろーけ。」

 わたしは話が半分位しかわからなかったが、(今は全部わかるよ!)
「わかった。ありがと。」
と言って電話を切り、真に伝えた。
「なんか、父ちゃんの名義って言えば大丈夫って!」
随分ざっくりしたが、伝わったらしく、真の機嫌はなおった。

 翌日、スーツの人が来たが、わたしは聞かれる前に言った。
「この家の物全部ウチの父ちゃんの名義なんで、彼の物ありませんよ?」
「奥さんですか?」
「彼女です!」
「わかりました。では、こちらで処理しておきますんで、お伝え下さい。」

 わたしは胸をなでおろす。
 それからスーツの男は来なかった。

 夏の暑い日のこと、電気代の未払で、電気は止められていた。

 窓は、網戸だけして、カーテンも全開だった。涼しい風に吹かれながら、わたしは転がっていた。

 すると、真が帰ってきて、
「今電気使えるけ、飯炊け!今日は誰か来ても絶対出るなよ!」
と言うと、また仕事に行ってしまった。

 わたしはなんのことやらわからず、とりあえず、真に言われた通り、ご飯を炊いた。

 転がってしばらくすると、わたしは眠りに落ちていた。

 次に気が付いたのは、激しくドアを叩く音だった。
「岩田さーん!!」
わたしは、真に言われた通り、居留守を決め込んだ。

 諦めたのか、ドアの前は静かになった。ホッとしたのも束の間、ベランダの隙間から誰かが覗いていた。

 そして、
「とうでんは犯罪ですよ!」
と怒られた。

 わたしは訳がわからず、思わず聞いた。
「とうでんってなんですかー?」

 おじさんは、怒鳴るように、
「電気を盗むことですよ!」
と言って、去って行った。

なるほど、盗む電気で盗電!
納得!
スッキリして、暗い部屋に座る。

後日きちんと電気代払って無事復旧しましたよ!

バカな質問しちゃったおじさん、ごめんなさい。ほんとに意味がわからなかっただけなんです!

…って、みんな覚えてんのかなぁ?

 わたしは、いじめられてからおかしな感覚がついてまわる。 

 わたしとの関わりが無くなった途端、一気にわたしの存在自体が、その人の記憶の中から消えて無くなりそうな。恐怖……。

 忘れないでいてほしくて、記憶に少しでも残りたくて、どうしたらいいかわからずに、一生懸命尽くす。

 その姿は、姉から見れば媚びていたり、周りに迷惑をかける最低な妹に………見えなくもないか。

 こうして、考えを言葉にしていると、段々答えがみえてくるもので…。だから、わたしはこうして書くことを続けるんだ。 
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