蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~

初めての恋をもう一度

「引越し業者ってすごいのね……」


 三時間後、私は蓮司さんのマンションの自分の部屋で呆然と突っ立っていた。
 荷造りもお願いできるパックにしたのだけど、さほどの量はなかったとはいえ、時間通りにやってきたふたりのスタッフは私のこまごまとした道具や衣服などをあっという間に梱包し、一時間足らずですっかり運び出してしまった。私の部屋──というか私の部屋だったこの場所にはもうベッドしかなく空っぽだ。


「こりゃ夜逃げもできるわ……」


 この三カ月で私に生まれた癖。
 この家に蓮司さんがいないとき、私はやたらに独り言が多くなる。もうここに戻ることはないから、この変な癖は今日で終わりだろう。

 空っぽの部屋に立っているとつい感傷的になってしまい鼻の奥がツンとしてきたので、家の中に忘れ物がないか、最終確認をすることにした。予定の攻撃路線から大きく外れたとはいえ、一応会社で別れをビシッと決めてきたのだから、大事なものを忘れてモジモジしながら後日彼に連絡を取る、なんて羽目になるのはご免だ。


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