蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
エピローグ

 半年後、橘ホテル東京の副社長室。立ったまま腕組みをする私は、副社長席で腕組みをする蓮司さんと睨み合っていた。


「岩ひとつでどれだけ時間がかかるんだ?」

「最高の天然ものがいいと注文をつけたのはそちらでしょう。工場で作ったものではないし、取り寄せられるものでもないから、現地に足を運んで吟味してるんです。私が毎日飛び回ってるの、知ってるでしょ? もう少し待っていただけませんか」

「リニューアルオープンは一カ月後だ。客の前で岩を運び込むつもりか?」

「それもいいショーになりますよ。クレーンを使うので結構面白いんです。それか適当な岩で手を打つか。どこで妥協するか、ですね」


 ふたりの間に不穏な沈黙が落ちる。


 あれから私の父は回復し、母の厳しい体調管理のもと、とりあえず社長の職務に戻っている。父は社長でいるのが生きがいなのだ。私はそんな父を支えるため、白川花壇の副社長として日々忙しく走り回っている。
私が目指すのは白川花壇にしかできない仕事をすることだ。大量販売は狙わない。売上日本一も狙わない。

『箱を見ればわかります』

 家元にかけられたあの言葉をまた聞けるように、腕のいいバイヤーや優秀な職人を呼び戻し、廃れていた造園業をこの半年で立ち直らせた。生花事業はテナントを絞り、大量販売のために花と人材の質を落とさないことを目指している。


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