お見合いから一夜明けた日曜日、私はシャンデリアに照らされた披露宴会場にいた。
 昨日は華やかな夜会巻きにしていた髪は低い位置できっちりとシニョンにまとめ、色鮮やかな着物ではなく紺色のシンプルなスーツに身を包んでいる。自分を消した滅私の服装はお客様のサポートに徹する姿勢の宣誓であり、戦闘服でもある。

 バイオリンの調べが優雅に流れるバンケットルームからバックヤードに一歩入ると、そこは打って変わって戦場だ。


「右エリア、お皿がまだ下がってない」

「メインディッシュがもう厨房を出たから急げ」

「美容室から連絡です。今、新婦の森下さまがお支度を整えられて翡翠の間に向かわれました」

「お色直し入場曲のスタンバイを」


 飛び交う指示、皿や銀器の響き、無駄のない動きで分刻みの進行を支える給仕係たち。披露宴会場のバックヤードは緊張感に満ちている。披露宴会場だけではなくホテル全体の各部門が息を合わせ連携し合う一体感。
 料理がデザートになり引き出物の紙袋を満載したワゴンがバックヤードに整う頃になると、スタッフは安堵を浮かべながらフィナーレに向けさらに気を引き締める。

 そうして二時間の宴が終わり最後の客を送り出したとき、関わるすべての人に感謝を込めて、私は笑顔でインカムに告げる。


「翡翠の間、高梨さま・森下さまご両家、無事にお開きです」


 インカムで各部署に伝えるこの瞬間の達成感は疲労も忘れるほどだ。