きみのための星になりたい。

それから二日後。私とあかりの関係はそう簡単には変わることなく、ズルズルと心地悪い日々が続いている。それでも毎週二回の塾の日は遠慮なくやってきて、今日も私はあかりと肩を並べて、あまり会話の弾まない道中を共にしていた。

七月の後半ということもあり、外気は生温くじめっとしている。温度も湿度も高いこの状況では、例え短距離だとしても歩いているだけで簡単に汗を誘ってしまう。

「……さすがに熱いなあ」

無意識に漏れた言葉。あかりはちらりと私に視線をやると、小さな声で「そうだね」と呟いた。

途中でミネラルウォーターを口に含みながら、やっとの思いで塾に辿り着いた私たち。自動ドアをくぐって、行き慣れた教室を目指す。

なるべく音を立てないようにドアを開け、教室に足を踏み入れたら、そこはまるで天国のよう。……程よく効いた冷房が、身体にこもった熱を芯から冷やしてくれる。とても気持ちがいい。

私は額にうっすらと浮かび上がった汗をハンカチで拭うと、定位置である自分の席へ向かう。

先に来ていた柊斗と悠真くんに挨拶を済ませ、筆箱を出したり問題集を開いたりと授業の準備を始めていると、「凪」と前から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それはとても優しい声色で、すぐに誰だか気付く。

「柊斗」

俯けていた顔を上げて柊斗と目を合わせれば、柊斗は優しい笑みを浮かべた。

「今日も暑かったね。ちゃんと水分とった?」
「うん、ここへくる間も水を飲みながらきたよ」
「それならよかった。最近は、脱水や熱中症で救急搬送される人も多いみたいだから、俺らも気をつけないと」

その言葉に、確かにそうだね、と頷く私。

「そうだよ、夏はバテたりもしやすいから、気をつけないとな。ほら、あかりもだぜ?」

私たちの話が聞こえていたのか、悠真くんが身を乗り出して私とあかりの顔を交互に見る。その言葉に、私と彼女は小さく笑って首を縦に振る。決して互いに目線を合わせようとしない。

少しだけ、悠真くんが苦笑いを浮かべたのが分かった。きっと彼らにも、私たちに何かがあったんだということは雰囲気で伝わっているのだと思う。もしくは、あかりと悠真くんは仲がとても良いから、あかりが悠真くんに喧嘩をしたことを話しているか。

どちらにせよ、柊斗や悠真くんに気を遣わせているのは確かだ。……しっかりとあかりに謝って、仲直りしなければ。その気持ちだけが、一丁前に大きく膨らんでいく。

怖いけれど、これ以上周りに迷惑をかけるわけにはいかない。ぐるぐると色々な感情が脳内を巡っていたところで、今日の授業を担当する先生が教室に姿を現す。

その瞬間、周りの生徒たちが一斉に背筋を伸ばし、授業を受ける体勢になっているのを見て、私もとりあえず授業に集中しなければと気を引き締めた。

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