あなたに捧ぐ潮風のうた
三の巻 死別



 六月十七日、中宮亮(ちゅうぐうのすけ)として中務省に出仕するため、通盛は牛車を降り、宮中を歩いていた。

 この日は朝からしっとりと雨が降り、空気が騒がしくざわめいている。

 肌に火花が滑るような不快感に通盛は眉を寄せた。
 
 どこか人を不安にさせる空気が漂っており、通盛は一層怪訝に思った。

「聞いたか」

 後ろから聞こえる密やかな男たちの声。
 あまりいい気持ちがしない、悪意すらも感じられる声音だった。

 ふと通盛は彼らの会話が気になり、さり気なく後ろを歩く男たちの会話に耳を傾けた。

「……先程聞いた話なのだが……実は……」

 続けられた言葉に、思わず足が止まった。

『──白河殿(しらかわどの)がお亡くなりあそばしたそうだ』

 唐傘を雨粒が叩いている。
 透明の雨粒が地面に滴った。

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