25年目のI love you~やっぱり一緒に・・・②~
15年前、俺は33歳だった。社会人1年生で、妻と結婚した俺は、結婚からも入社からも10年の節目を迎えていた。


3年前にマイホームを建て、結婚して間もなく授かった2人の息子は小学校低学年のヤンチャ盛り。そして仕事では役職に就き、公私ともに多忙な日々を送っていた。


残業三昧、土日出勤も出張も当たり前の日々。自然、家庭は疎かになったが、妻は嫌な顔1つせず、そんな俺を支え、家庭を守ってくれていた。


身体はキツくても、幸せで充実した日々。そんな時期に俺は、1人の新入社員を預かることになった。


山下穂乃果(やましたほのか)というその女性は、その名前から受けるイメージ通り、ほんわかとした癒やし系。打てば響くというようなタイプではなかったが、何事にも真面目にコツコツと取り組む努力家だった。


今にして思うと、妻に重なる部分が多い女性だったかもしれない。


ちょうど彼女の入社と入れ替わるように、それまで俺をサポートしてくれていた女性社員が、寿退社したこともあり、大卒の山下にはその後釜を務めてもらえるように、いろいろと指導した。


結果、彼女と一緒にいる時間が多くなっていったのは、紛れもない事実だ。


試用期間が終わり、ウチの課に正式配属された彼女は、俺のアシスタントとして、動き出した。無論、まだ前任者の域に達することは出来るはずもなかったが、ひたむきに真摯に業務に向き合うその姿には、俺は好感を持っていたし、多忙の合間に見せる彼女の笑顔に癒やされていたのも確かだった。


残業も土日出勤も、時には泊まりこそなかったが日帰り出張も、不平1つ言わずにこなしてくれる山下には、頭が下がる思いだった。


そんな彼女の労をねぎらおうと、時に呑みに行ったり、食事を共にしたりしたが、そういう時は、2人きりで、というのだけは、慎重に避けていた。


ただでさえ、一緒にいる時間が長く、誤解される危険性が高いのは自覚していた。あらぬ噂を立てられ、彼女に迷惑をかけることは、あってはならないことだと自分を戒めていた。


そして気がつけば、季節は夏が過ぎ、秋を迎えていた。
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