第五章

 週末の土曜日。天気は快晴絶好のデイキャンプ日和だ。

 日菜子と拓海は直接会場のキャンプ場へと拓海の運転で向かう。

 車内では仕事の話は一度も出なかった。彼の好きな曲がステレオから流れてきて、ご機嫌に運転する彼の隣で、日菜子もまた彼に笑いかける。

「今日って、何人ぐらいくるんだ?」

「子供は四十人、お手伝いお大人が十人くらいって言ってた」

「結構多いな。それだけお兄さんの道場、人気なんだな」

 拓海の言う通り、父親がメダリスト兄も国内では有名だったため、経営する道場は遠方からも練習に来る人がいる。

「そうだね。お兄ちゃんはわたしと違って本当に柔道が好きだから」

 日菜子にとっても小さな頃は楽しかった柔道。しかし思春期に受けた心の傷が原因で今では柔道と距離をとるような生活をしている。

 少し声のトーンを落とした日菜子の頭を拓海が撫でた。

「俺はお前の一本背負いかっこよかったけどな。そのおかげでこうやって今ふたりでいることができてるわけだし」

 拓海の言葉に日菜子は少し驚いて、それから笑顔を浮かべた。

 自分の中でのコンプレックスだったものを、拓海は好きだと言ってくれた。だからといってつらかった思いが消えるわけではないけれど、それも自分の一部だと思える日が近いうちにくるのではないかと思えたのだ。

 今、日菜子は拓海のおかげで間違いなく幸せだ。そして彼は日菜子の過去の思いも癒やしてくれる。

 改めて彼のことを好きになってよかったと、心から思った。