拓海はそんな日菜子にとろけるような甘い笑顔を向けた。

 彼の唇が近づいてくる。しかしそれを日菜子が止めた。

「ま......待って」

 しかし拓海はそのことがひどく不満そうだ。

 ネクタイに指を差し入れて左右に揺らしほどきながら、日菜子を熱のこもった目で睨む。

「これ以上待たせないでくれ。頭がおかしくなりそうだ」

 普段は余裕な彼の焦った姿。日菜子はこんなふうに自分を乞うてくれる拓海を見ると、愛おしさが溢れてしまいなんでも許してしまう。

「ゆっくり、愛して」

 それでも今日はゆっくりお互いを感じたかった。ここ数日の不安な日々を忘れるような幸せな時間を感じたかった。

「そういうかわいいこと言うと、逆効果だってわからないのか?」

 拓海は困った表情をして小さなため息をつく。

 実際今回も日菜子の抵抗はほとんど意味をなさずに、結局強引に唇を奪われた。

「......っん......は」

 エレベーターで交わしたキスよりももっと深く熱のこもったキスだった。日菜子もそれに必死で応える。

 どのくらいの間そうしていたのかわからない。けれどお互い名残惜しさを残しながら唇を離す。

「煽ったのは日菜子だからだな。ゆっくりは無理。でも優しくする」

 日菜子の願いが聞き届けられなかったけれど......それでも見つめてくる彼の瞳が優しいから。

 ゆっくりとうなずいた日菜子は、彼に自分のすべてをあずけた。