日菜子はうなずいて、もう一度建物に目を移す。

 今日は日曜日なので、園児の姿はなかったけれど、きっといつもは子どもたちがおもいきり園庭を走り回っているに違いないと思えた。

「あのとき、日菜子がキャンプに連れて行ってくれてなかったら、あの建物は存在していなかった」

「そんな......大げさだよ」

 きっと拓海ならば日菜子の行動がなくても、素敵なアイディアを思いついていただろう。

 「いや、そんなことない。あのときだけじゃない。仕事のときはアシスタントとして俺が忘れがちなことにもきちんと気がついてくれるし、プライベートでは俺の重苦しい愛もちゃんと受け入れてくれてるだろ」

 その言い方にちょっと笑ってしまった。

「それは拓海もわたしにそうしてくれているからだよ」

 日菜子は拓海に人の愛し方を教えてもらったと思っている。お互い大切に思い合い、受け入れること。少しずつ理解を深めていくこと。自分の気持ちに正直であること。

 ふたりでいるために必要なことは、全部拓海が教えてくれた。

 彼とつき合う前の自分に教えてあげたい。近い未来に素敵な人と愛し合えるようになることを。

「俺たちの子供も、あんな幼稚園に通わせたいな」

「え......?」

「そういうこと、考えたことない?」

 フェンスにもたれた拓海が日菜子に視線を移す。

「それ......って」

 思わず声が掠れた。

「松風日菜子さん、俺と結婚しませんか?」

「......っ」

 拓海は日菜子の顔を覗き込んだ。近い距離で目が合って、ここ最近なれてきていたものの状況が状況だけに、顔が赤くなる。