しかしどこかに行くと思った拓海は、その場に居続ける。脇坂もその場を離れない拓海の様子を見て、チラッと日菜子の方を見てからそのまま話を始めた。

「今週末、営業課の女の子たちと飲みに行かない? 今なら少し案件が落ち着いているかなぁって思って。みんな南沢くんの授賞をお祝いしたいって」

 どうやら飲み会の誘いのようだ。目の前で話をしているので、話が否応にも聞こえてきてしまう。しかしマナーとして、聞こえていないふりをして仕事を続けた。

「そうですか、ありがとうございます」

 にこやかに笑う拓海に、脇坂も顔をほころばせた。

「じゃあ、詳細は――」

「いえ、誘っていただいたのはうれしいんですが、実は松風さんにあれこれと仕事を教えている途中なんですよ。金曜日も俺が外から戻ってきてレクチャーすることになってるんで、すみませんがみなさんだけで楽しんで来てください」

「えっ!?」

 そんな約束をした覚えがない日菜子が声を上げる。

「そうだったよな? 松風」

 拓海は日菜子の方を見て、わずかに目を細めた。それだけで「余計なことは言うな」という意図を感じ取ってしまった。

「あ……え、……はい」

 仕方なく拓海に合わせると、次は脇坂に睨まれた。

「本当なの? 新人でもあるまいし、ある程度の仕事は教えてもらわなくても出来るでしょう?」

 その通りだ。だからこそ、拓海からまわってくる大量の仕事をさばいている。けれどここで反論しようものならば、拓海が何を言い出すかわからない。

「俺のやり方に慣れてもらっているところなんです。だから今回はすみません」

 拓海が眉尻を下げてすまなさそうに言うと、脇坂もしぶしぶ引き下がった。

「今回は仕方ないけど、次回は絶対に参加してね」

「善処します」

 肩をすくめて会話が終わった。巻き込まれた日菜子がほっとした瞬間。