それを見て完全に息が上がっていた日菜子は、その場で胸を抑えて呼吸を整える。

「おい、何やってるんだよ」

 日菜子の元にやってきた拓海が、彼女の肩に手を置いて彼女の顔を覗き込んだ。

「ご、ごめ……ん、あの……」

 息切れしたままなんとか言葉を続けようとするが、うまくいかない。

 大きく息を吸い込み一生懸命呼吸を整えようとする日菜子は、朝の通勤時間で足早に目的地に向かう人たちからすれば、明らかに邪魔だった。

 拓海は、機転を利かせてビルの通用口へと続く通路に、彼女を引き入れた。そして彼女が落ち着くのを待って口を開いた。

「何があったんだよ。怪我の手当もしてないじゃないか」

 声色は硬かったが、決して怒っているわけではないのはわかる。むしろ日菜子を心配してくれている。

 それを感じて日菜子はこれまでの彼の好意を踏みにじってしまったことに、罪悪感と申し訳なさでいっぱいになった。

「ごめんなさい」

 うつむけていた頭を余計に下げて謝罪する。

「わたしさっき、すごく嫌な態度とってしまって。本当にごめんなさい」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことじゃないよ! わたし醜いやつあたりしてしまって。南沢くんは関係ないのに」

 顔を上げて必死になって、謝罪する。

「そうか、反省してるのか?」

「はい。本当にごめんなさい」

 ありきたりな言葉しかでてこず、気持ちが伝わるのか不安になる。

「だったら、次は松風のおごりな。寿司行こう、寿司」

「え?」

 あまりにあっけらかんとしている拓海に、日菜子は驚きを隠せずに顔をあげた。

「だから、寿司な。お前のおごりで」

「いいの? そんなことで?」

「そんなこと? 廻らない寿司だぞ。ちゃんと金、用意しておけよ」

「それはいいけど……」

 あまりにも簡単に許してもらえたことで、言葉がでない。

「俺も悪かったよ。あんなふうに突き放すような言い方して」

 逆に謝られてしまい、ブンブンと首を振って否定した。

「なあ、また誘ってもいいよな?」

 日菜子がはっとして顔をあげると、拓海はじっとこちらを見ていた。