「これで、二度目か……」

 残念そうな拓海の声が聞こえて、なんだかおかしくなった。

「なにがおかしいんだ」

 拗ねた拓海に「なでもない」と言うが、やっぱりなんだかおかしくて思わず頬を緩める。

 ちょっと残念なような気もするが、緊張が解けた日菜子は少しほっとしていた。

「じゃあ行こうか?」

 そう行って歩き出した日菜子の手を、拓海が引いた。

「え?」

 振り向いた瞬間、日菜子の唇が拓海のそれに触れた。

 驚いたまま固まってしまった日菜子に、拓海はニヤリと笑う。

「三度目の正直」

 クスクスと笑ったあと、日菜子の手を引いて歩き出した。

 半歩前を歩く彼の後をついて行く。しかし日菜子の思考は完全にさっきのキスにとらわれていた。

 まだ感触が残る唇を、指先でふれる。後になるほど実感がわいてきて頬が熱くなる。

 手を引かれていなければきっとまともに歩けていないだろう。ふわふわした感覚でぼーっと歩いていると、名前を呼ばれていることに気がついた。

「松風?」

「え? はい」

「電車大丈夫か?」

 言われて腕時計を確認する。そう急がなくても次の電車に乗れそうだ。

「それとも、俺んちに来る?」

 いたずらめいた瞳が、ぐいっと日菜子の顔に近づいた。

「え?」

 その言葉に一瞬にして色々と想像してしまう。やっと落ち着いてきた頬の熱がまた一気に上がる。

「冗談だって。今日は我慢する」

(今日はってことは……次は……)

 これ以上拓海との会話を続けていては日菜子の身が持ちそうにない。目を白黒させ
て言葉も出ない。

「今日は、これ以上は無理」

 必死にそう答えた日菜子に、「次は期待してるから」と妖艶な笑顔を見せた拓海。その顔に日菜子はまた心を乱されたのだった。