第四章
 お互いの気持ちが通じ合って数週間。
 一気に関係が加速するものと思いきや、ふたりの間にはそう変わりの無い時間が過
ぎていた。
 むしろ周りのほうがふたりの関係に興味津々のようで、日菜子にとってはしばらく
針のむしろのような時間が続く。
 けれどそんな意心地の悪さも、恋人同士になって増えたメッセージや電話のやりと
りが、日菜子の心の中に恋を積もらせていく。
 昨日から一週間ほど拓海は出張だ。職場で顔を合わせることがない。けれど「今頃
どうしているかな?」と思うタイミングで連絡があると、思わず頬をゆるませてしま
う。
 本当にゆっくりとした恋の始まりだと思う。けれど恋愛初心者の日菜子にとっては、
少しありがたいような気がしていた。
(なになに……二段目の引きだし?)
 拓海からのメッセージには、普段あまり使わない二段目の引き出しを開けてみるよ
うにとあった。
 なぜそんなところを?と思わないでもなかったが素直に指示に従うと、見慣れない
お菓子の箱とその上にはなにかメモされている付箋。
 手に取って確認すると、拓海の字で『俺がいなくて寂しいからって泣くなよ』と書
いてあった。
 少し寂しいとは思っていたけれど泣くほどではない。箱を取り出して中身を見ると、
チョコレートが入っていた。
(もう、南沢くん大袈裟だよ)
 そう思い呆れつつも、やっぱり少し寂しいと思っていた気持ちが凪ぐ。きちんとし
た気遣いに彼の思いが詰まっているのを感じ取れたからだ。