アラサーですが異世界で婚活はじめます
04 舞踏会デビューまであと3日
 本格的な夏が到来する直前、このところパリスイでは穏やかな陽気が続いている。

 爽やかな風が吹き抜けるルクリュ子爵邸の庭で、美鈴はぼんやりとバラを眺めていた。

 鮮やかな色を誇るような紅バラ、黄バラはもちろん、清廉な白バラ、幾重にも花びらを重ねたオールドローズのようなピンク色、オレンジがかったグラデーションの複雑な色合いのミニバラ……

 ルクリュ家のバラ園には、姿かたち様々のバラがまるで競い合うように、今を盛りと一斉に咲き誇っている。
 多種多様なバラの中には、美鈴の舞踏会用ドレスにそっくりな色合いのバラもあった。

 艶やかなオールドローズ色のその花の前で立ち止まり、美鈴は3日後にせまった舞踏会について思いを巡らせた。

 この世界、フランツ王国 パリスイの貴族階級の令嬢は、舞踏会へのデビューによって社交界進出を果たすことになっている。
 
 舞踏会の規模や趣向は主催者によって様々であり、美鈴の初参加となる舞踏会は、最高位の爵位を代々戴く家系に連なるやんごとなき身分の侯爵家夫人が主催する、大規模で華やかなものであるらしかった。

『運命の相手に出会うかもしれない』という淡い期待に胸をときめかせながら、世の貴族令嬢なら指折り数えて待つであろう舞踏会デビューまでの日々を、美鈴は不安な気持ちで送っていた。

「ミレイ……?」

 ゆったりとした軽やかな足音と自分の名を呼ぶ優しい声に、美鈴は我に返った。
 振り向くと、ルクリュ子爵夫人がバラ園と屋敷をつなぐ小路に立っている。

「あ……ロズリーヌ様、ごきげんよう」

 ゆっくりと腰をおとして優雅に跪礼(カーテシー)をする美鈴に、子爵夫人が微笑みかける。

 今日は濃紺のデイドレスを着用している夫人の肌は白くきめ細かく、40代後半とは思えない美しさを保っている。

「少し、サロンでお話ししましょうよ。この間手に入れた「とっておき」のお茶を淹れてみたのよ」
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